『ペンギンの憂鬱』

2008年05月01日 23:37

アンドレイ・クルコフ著/沼野 恭子 訳/新潮クレスト・ブックス
ヴィクトルは売れない小説家。餌代が払えなくなった動物園から貰い受けた、ペンギンのミーシャとキエフで同居していた。ある時、短編を持ち込んだ新聞社から、まだ生きている人の追悼記事を書いて欲しいと依頼を受ける。突然の訃報にも、対処できるようにしたいらしい。定期的な仕事を得て安心したヴィクトルだったが、個人的に追悼記事を依頼してきた男から、逃亡するからと娘を預けられてしまう。しかし、馴れない子供の世話でよりも、次第に感じられるようになった実体の無い脅威に大きな不安があった。そんな彼を密かに守る『庇護者』とは一体何なのか?彼の追悼記事が新聞に載る回数増えるほど、彼の身は危うくなっているようだった。

可愛らしい表紙、何だか面白そうな作品紹介、売れない作家がペンギンと一緒に暮らしているだなんて、まぁ〜、なぁんてファンタジック!とか思ったら・・・、やられた。。。
いや〜、面白かったわ。ロシアの小説は古典しか読んだ事がないので、そもそもそこからして新鮮な気分。実際、映画でも小説でも、東欧ならチェコやポーランドの方が格段に触れる機会が多かった。近くて遠い、似て非なる国、ロシア・・・・じゃなかった、ウクライナです。ややこしい!
全体の雰囲気は、飄々としているようで何だか暖かい感じ。台詞回しもやたらと好み、これは翻訳者の方のセンスに感謝すべき点だろう。良く知らない男の娘を預かり、その子の子守として若い女性を雇う。それまでペンギンと2人きりだったヴィクトルの暮らしに、俄かに活気が生まれ始める。それだけだったら、もしかしたら感動的な話にだってなり得たかも知れない。事実、ある側面を見なければ、終始楽しい雰囲気で読み進むことが出来る。
ソビエト崩壊後、ロシアが『外国』になり、小国となってしまったウクライナ。国民的尊厳は守られていただろうが、政治的側面は全く安定していなかったであろう頃が舞台である。1900年代後半頃ね。。。。ややこしい!安定した仕事を得て喜んだのも束の間、ヴィクトルはそんな『政治的』暗黒部分にどうやら放り込まれてしまったらしい。しかも、かなりバイオレンスな世界に。
これがこの作品の面白いところなのだが、全体の雰囲気とこのダークサイドが、全く噛合っていないのだ。それなのに、絶妙なバランスを感じられる。ヴィクトルのどこか冷めた人間性がそう感じさせるのか、憂鬱症のペンギンがバランスを保っているのか?ところどころを抜き出して読んでみれば、きっと楽しい小説なのだと錯覚することだろう。
またねぇ、このヴィクトルが・・・。何によってこれほど鈍い人になったのか、友人や子供、恋人、とりわけペンギンに対する感情には血が感じられるのに、自分の事となるとまるっきり。これがどこぞのハードでボイルドな男性主人公なら、単身敵地に乗り込んで、血まみれになってでも真相を探りだし、愛するもの達を守り抜き・・・となろうはずが、淡々と日々を送る事で満足してしまう。
だけど良く考えてみれば、もしも自分が、意図せずしてそうした世界に巻き込まれてしまったら、きっとヴィクトルと同じ行動を取ると思った。良く良く考えて、リアリティがある行動なのだ。そしてもしかしたら、当時のウクライナなら実際良くあった出来事なのかも?などと考えるにつけ、この作品、ひっそりと奥が深いのかも・・・?
楽しげでお気楽感漂う前半から、一気に深刻度を増す後半部分。単に根暗で穏やかなだけだと思えていたヴィクトルの性格が、ちょっと不自然な具合に変化してしまったような気もするが、ラストに向けて必要不可欠な描写である事は間違いない。
そしてあの、ブラック極まりないラスト・・・。いや〜、失敬かも知れないが、東欧だからこそ許されるというか、だからこそ読みやすく、一抹の爽やかさすら残っているような気持ちになれる。意図があったなら、相当ハードでボイルドな男の世界として、同じラストを描けたと思うが、不幸や危険を、あえて軽いタッチで描いたと言う点、非常に記憶に残る作品だったと言える。

ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)
(2004/09/29)
アンドレイ・クルコフ

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『酔いどれ詩人になるまえに』

2008年05月01日 19:49

〔米/仏/独/ノルウェイ/スウェーデン〕FACTOTUM (2005年)
監督:ベント・ハーメル
原作:チャールズ・ブコウスキー
脚本:ベント・ハーメル/ジム・スターク
マット・ディロン/リリ・テイラー/マリサ・トメイ ローラ/フィッシャー・スティーヴンス/ディディエ・フラマン/エイドリアン・シェリー/カレン・ヤング

寂びれた田舎町、町と同じくらい寂びれたヘンリー・チナスキー。日銭を稼ぎながら暮らし、時折文章を書いては、半ば自身でも諦めながら、決まった出版社の決まった担当宛てに郵送していた。仕事も恋人も長くは続かないヘンリーだったが、酒場で出会ったジャンとは馬が合い、程なくして一緒に暮らし始める。酒とタバコ、自堕落な生活、まるでそれが、生きる糧であるかのように。チャールズ・ブコウスキーの自伝的小説の映画化。

先日『猟人日記』の感想で、『ビートニクなんて理解不能!』とか、書いたと思うが、また性懲りも無く(笑)。ちなみに若い頃読んだ中で、唯一C・ブコウスキーだけは、そこそこ悪い印象の無い作家だった。今でも時々読み直そうかと思うときがある、根本的に、自堕落と自虐が徹底してるのよね、もう何か、この切れ味は冗談か何かだろうと、これほどの馬鹿を大真面目にやってる自体がコメディだよねと、若いながらにそう思ったものだった。
とにかく、行動も発言も思考も、ほとんど人として機能していないように感じた。酒と女とタバコ、酔って気持ち悪くなっても誰にも何にも言われない自由があれば、それで俺の人生最高で最低。死ぬのは怖いし、路上で暮らすのなんか最悪だけど、酒とタバコは止められない。一応まともに働こうとは思うけど、こんな小さな職場は俺の収まる枠じゃないんだよ、というね(笑)。救いようが無い、それに本人も、救われたいなんて思っちゃいないはず。
全くふざけた男だとは思うし、酒に焼けた脳みその戯言だとは思ったのだが、それでも何故か『面白い』と思ったものだ。この男の生き方に『格好良さ』は全く感じないが、それでもこの人の書く文章には魅力がある。徹底したアウトローさが、結果的にはビートニクという集団になってしまった枠からさえも、はみ出そうともがいている感じ。
ケルアックの『ビートニク』的な要素は造られたようでど、こか小綺麗な印象を感じた。それに対してブコウスキーは、圧倒的な汚さ(笑)と崩壊と野暮ったさを秘めている気がして、そこもまた興味深いと感じる部分だったのかも知れない。ノンフィクションのはずが、ほとんどフィクションになり代わってしまう自堕落の極み(笑)。ちなみに、普通の探偵小説『パルプ』は面白かった。
と言う事で、これはそんな映画だ。全編これブコウスキーなのだ。全くもってどうしようもない男の姿だ。こういう人って、それが好きだからそうしているのか、一種の精神病なのか?時々考えてしまう。絶えず酒焼けで顔を赤くし、だらしない様でブコウスキーを(いやヘンリーを)演じきったのはM・ディロン。彼の俳優人生をかけた渾身の演技だと聞いていたので、その姿を見るためだけにこの作品を借りたのだ。そういう面では非常に満足だ!強がりじゃない!本当だ!!
まぁ私のようなアンチ・ビートニクには、こういう人物の良さというのはやはり解らない。そんな男から離れられない女の事も解り様が無い。いくら自由があったとしても、こんな刹那的な日常は嫌だ、結果的には、あの自堕落な生活のせいで、根本での自由は失われているのじゃないか?なんて色々思ったりもするが、やはりこの手の人の自叙伝絡みの作品って、究極のナルシシズムと自己憐憫の奔流を感じずにはいられない。

酔いどれ詩人になるまえに酔いどれ詩人になるまえに
(2008/02/27)
マット・ディロン、リリ・テイラー 他

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ぽすれん『酔いどれ詩人になるまえに』紹介

『プロヴァンスの贈りもの』

2008年05月01日 19:46

〔米〕A GOOD YEAR (2006年)
監督:リドリー・スコット
原作:ピーター・メイル
脚本:マーク・クライン
ラッセル・クロウ/アルバート・フィニー/フレディ・ハイモア/マリオン・コティヤール/アビー・コーニッシュ/ディディエ・ブルドン/トム・ホランダー/イザベル・カンディエ/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/ケネス・クラナム/アーチー・パンジャビ/レイフ・スポール

冷静かつ冷徹に仕事をこなすマックスは、両親を早くに亡くした彼の面倒を見てくれたヘンリーおじの訃報を受け取る。おじの残した遺産は、資産価値のありそうな邸宅に、資産価値の無いブドウ畑だった。子供の頃の楽しい思い出をたっぷりと含んだ屋敷だったが、ワイン製造には興味が無いと、あっけなく手放す事を決める。手続きのために暫く滞在した南仏プロヴァンス地方では、幼い頃の思い出が残像のように蘇ってマックスを和ませる。しかし彼の売却の決心は揺るぐ事が無く、手続きは着々と進んで行くのだった。

『良さそうだ!』という自分の勘が当たると、なんだか嬉しいものだ(笑)。とは言え、こちらの原作関連は、ひつっっっっこい!ぐらいに古本屋でお目にかかるが、一度も読もうと思った事は無い。なぜ映画なら観る気になったのかというと、あの手の小説の宣伝とカバーから察するに、きっと景色が物凄く綺麗な映画になっているだろうし、予告編を観たら、M・コティヤールがトンでもなく可愛かったので観る事にした(笑)。いやいや何より、良い作品らしい匂いがプンプンしたのでね。まぁ映画なんて、大概そうした己の勘が頼りだったりするのだろうけど。
いずれにしろ、『良い映画だった!』と言えるのは、プロヴァンス地方の美しすぎる真夏の景色、素朴だけどヨーロッパらしい街の雰囲気など、そうした背景描写の効果が多分にあるのではないか?と思ってしまう。良い役者陣、優れた演出などに対するには甚だ失礼な見方ではあるが、とにかく、あの美しい数々の景色に、完全にノックアウトされてしまった(笑)。
しかし風景以外でも、勿論観るべき要素は沢山あった。例えばマックスの心境の変化なども、嫌味なく大袈裟でも無く、しっかりしっとりと語られて行く。色々な要素はあったけれど、語るべき主題がぶれていない、だからこそ、サブエピソードも御座なりにならずに楽しめる。
それまでのマックスの都会での生活と、実直で愉快な田舎の人達との生活を対比させながらも、決して甘ったるさは感じられないところも良い。良い意味でフランス的なそっけなさが、抑えた感じでリアルさがある。だからこそ、最終的なマックスの決断も、すんなりと受け入れられて、いやにスッキリした気分になるのだ。う〜ん?やはりR・スコットは好みな監督らしい。
さてさて、とにかくとにかく、M・コティヤールが可愛い♪思えば最近、こうして『普通』に魅力を振りまく役柄は、ほとんど無かった気がする・・・?全く、可愛いったらなかったわ(笑)。でもね、実はね・・・この映画で一番良かったのは、なんと・・・ああ、なんと、R・クロウだったのだ!!!
私の中では、演技派というより筋肉派として記憶しているR・クロウ。あの肉体に対して、可愛すぎるあのタレ目。このアンバランスさが母性本能をくすぐるのだろうと、妙に冷静な判断を下しつつ、演技云々というよりは、役柄に助けられているよねぇ?というイメージ。だったの!!!
今回もまた役に助けられていたのかも知れないが、根っからの悪人ではないのだが、長年身を置いてきた殺伐とした世界を生き抜くために、冷徹で無神経な殻を無意識に被ってしまっていた、マックスとはそんな男じゃないかと思った。そうして無意識にでも殻が必要な人は、往々にして『優しすぎる』、本来の性格が仇になっているのではないだろうか?そんなことを、R・クロウを観ながら思った、、、思ってしまった。だって、瞳が綺麗なんですもの・・・、ああ、、、ぁ。
コミカルとシリアスのバランスも良く、ちゃんと笑わせてくれて、しっかりホロリとさせられた。なんとも愛すべき男に変身していくマックスを、とても丁寧に演じていた感がある。これまで何度か見てきたような激しさやワザとらしさが無くて、とにかく良かった。もしかしたらこの映画の評価を上げているのは、R・クロウのおかげかも知れない・・・というぐらいね。く・・・くやしい(笑)。

プロヴァンスの贈りものプロヴァンスの贈りもの
(2008/01/11)
ラッセル・クロウ.アルバート・フィニー.フレディ・ハイモア.マリオン・コティヤール.アビー・コーニッシュ.トム・ホランダー

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ぽすれん『プロヴァンスの贈りもの』紹介

『ヘアスプレー』

2008年05月01日 19:18

〔米〕HAIRSPRAY (2007年)
監督:アダム・シャンクマン
脚本:レスリー・ディクソン
ジョン・トラヴォルタ/ニッキー・ブロンスキー/ミシェル・ファイファー/クリストファー・ウォーケン/クイーン・ラティファ /ザック・エフロン/ブリタニー・スノウ/アマンダ・バインズ/ジェームズ・マースデン/イライジャ・ケリー/アリソン・ジャネイ/ジェリー・スティラー

16歳の高校生トレーシーは、地元ボルティモアで大人気のダンス番組、『コーニー・コリンズ・ショー』に夢中だった。いつか自分も同じ舞台で踊りたいと願っていたが、遂にそのチャンスが訪れた!おでぶキャラのトレーシーだがダンスはピカイチ、髪型もばっちりで、直ぐに番組の人気者に。しかし、そんな彼女の活躍を快く思っていなかったのは、番組プロデューサーのベルマだった。差別主義者で横暴なベルマは、週に一度のブラック・デーを廃止してしまう。そして、抗議行進に参加したトレーシーは、思わぬ災難に巻き込まれてしまうのだった。

まずまず、面白かったかな。夢を追いかけて人気者になったトレーシーという楽しくて幸せな部分と、1960年代初頭、未だ根強い黒人差別を残すボルティモアを舞台にした真摯なエピソードが上手く絡みあっている。しかし!?本来なら余りにも毛色の違う要素をドッキングさせたがために、双方ともが『そこそこ』レベルの面白さに留まっているのね。
トレーシーの『夢を追う!』というエピソードは紋切り型だし、差別に関するエピソードや展開も、実にありきたりであっさりしたものだ。これが、良い意味で『教科書的映画』という気分にさせる。これで演出や役者が悪かったら最悪だろうが、その水準は高いので、満足の行く出来なのだ。
学校の演劇発表レベルの素人だった主演のN・ブロンスキー。残念ながら演技力の程は予想通りだったが、一生懸命さは伝わって来たし、トレーシーと同じく楽天的な豪快さがあると思う。
内容的には、アラを探せば正直幾らでもある。加えて、粗筋を聞いた瞬間から全てのストーリーが克明に予測できるほど単純だったとしても、構成や演出が良かったので個人的にはOK。その上更に、わたし的には、C・ウォーケンの存在だけで万事OK!という気分だ(笑)。最近この方、何となくこういうキャラクターが多いような気がするが、そんなC・ウォーケンが好きだわ。
J・トラボルタは、なぜゆえママ役に抜擢されたのか?その疑問は映画を見終わっても謎のままだったのではある。歌って踊れる女優なんて幾らでも居るだろうに、ましてあれだけ特殊メイクの塊と化すなら尚の事だ。単なる話題作りだけなら、それこそ失敬な話だと思うのだが?J・トラボルタの踊りも歌も、『女性らしい』演技のおかげで堪能するほどの迫力も無いのではあるが、仕草や目線が妙に女っぽくて、結構サマになってはいた。
その他ではやはり、以前日記にも書いたがJ・マースデンが・・・あれ?余り目だっていなかった・・・。歌もアイドルばりに無難に上手すぎて、逆に影が薄くなってたかな〜。良い役だったので残念ね。Z・エフロンは、かなりムリムリだったけど頑張っていたのでは?以前『無機質』と評した気がするが、ちょっと今回は、色が付いたというか、現実感が出てきた感じ(笑)。
M・ファイファーも相変わらずお綺麗だし、A・バインズは滅法可愛いし♪何より今回は、Q・ラティファが良かった!あの役にQ・ラティファを充てる辺りも基本的だと思うが、それを良いと思わせる演出が上手だった。もちろん、Q・ラティファ自体が、良い雰囲気を持っているからなおさらだ。
役者の存在感も良かったし、演出や展開も飽きさせなかった、万人向けの面白い作品だと思う。それに、単純だからこその教育的雰囲気も嫌いじゃない。なんだかんだ言って、作りがまじめなんだろうな。いっその事この作品を、学校指定推薦映画にでもすれば良いのに(笑)。

ヘアスプレー DTSスペシャル★エディション (初回限定生産2枚組)ヘアスプレー DTSスペシャル★エディション (初回限定生産2枚組)
(2008/04/04)
ザック・エフロン、ニッキー・ブロンスキー 他

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ぽすれん『ヘアスプレー』紹介


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