『小さな白い車』

2008年05月04日 12:54

ダン・ローズ著/金原 瑞人・田中 亜希子 訳/中央公論新社
写真家を夢見るヴェロニクは、毎日つまらない仕事をして、気の滅入る同僚に我慢して、会う度にトリップしては、埒もない夢を語る恋、ジャン=ピエールとの不毛な付き合いに嫌気が差していた。とうとう我慢の限界を超えたヴェロニクは、数本のマリファナを吸ってワインをしたたか飲んだ後、ジャン=ピエールに別れを告げて車に乗り込む。若干朦朧としながら家に帰った翌朝、テレビでダイアナ元妃の交通事故死のニュースを聞く。次第に蘇ってくる昨晩の記憶、暗いトンネルの中での接触事故!?自分がダイアナ元妃を殺してしまったと確信したヴェロニクは、親友のエステルと事件隠蔽工作を画策する。

あああ、あのダン・ローズが!?図書館でこの本を手に取った時、思わず慌てて解説を読んだ。本来この作品は、ダヌータ・デ・ローズという『女性』が書いたという名目で発売されたらしいが、実際は『ティモレオン センチメンタル・ジャーニー』、『コンスエラ 7つの愛の狂気』等、天才的な物語を紡いだ『男性』作家が書いた、『コミカルでライトタッチ、ちょっとだけサスペンスフルな、フランスを舞台にした読みやすい小説』だったのだ。
えええええ、え〜、ダン・ローズが!?前作を書き終わった後、『燃え尽きた』と言ったかどうかは定かじゃないが、消耗しつくしてもう文章は書きたくないと公言したそうだが、だからこそ、こういうライトタッチな作品を描いたのか、これは著者にとって、充電的作品だったのだろうか?
彼の次作を心待ちにしていた私としては、いささか肩透かしという気持ちもあるが、それでも、あの天才の作品がまた読めるなら、フランスが舞台だろうが、ちょっとおばかな女の子が主人公だろが、いい、何でもいい、読めることが私にはご褒美だ、『なんの?』とは聞かないで(笑)。
確かに、どこにでも転がっていそうなお話だ。文章も、あの鋭利さを隠した鈍重な味わいのある雰囲気とは程遠い。のだが?良く良く考えてみて、やはり鷹が爪を隠して描いた風貌が伺える。
それはこのプロット、数々のどうしようもないエピソードを通して見えてくる。まず、ダイアナ元妃を殺しちゃった!って、それどうよ?フランスで何不自由なく暮らしているヴェロニカの日常は、余りに奔放で甘やかされていて、思わず苦笑が隠せない。それゆえに、彼女等の思考や発想は思わずあっけに取られるほどアホらしい(笑)。
物語も中盤になる頃に私の中で固まった印象は、『トレインスポッティング』辺りの男性なら良くある、中途半端で自堕落な青春小説の女性版だなぁというもの。舞台はフランスではあるが、非常にイギリス的だ。客観的にイギリスが語られる場面もあるのだが、それとて、やはりイギリス的な風合いが滲み出ている。イギリス人だからこそ書ける、異国イギリスの事。これは、前2作、とりわけ『ティモレオン センチメンタル・ジャーニー』には色濃く現れていて、異国におけるイギリスと言う存在感を、興味深く表現する作家だと思う。
まぁとにかく、ヴェロニクと友人エステルの行動や発想がバカらしくも面白い。甘やかされて育って、自己中心的な感覚に悪意が無い。受け入れられるのが当然と思っている、美しく若い女性達。余りにも日常が幸福だから、無意識に求める悲劇のヒロイン像。それにどっぷり漬かれる『ダイアナ元妃殺害疑惑』は、彼女達にとっては絶好のチャンス。何かにつけ悲劇を装ってみるのだが、傍から見れば滑稽にしか見えないの。そうした姿を、あえて大真面目に書いている気がした。
こうした計算高さが女性らしく感じられ、男性版の似た青春小説との違いと思える。元恋人とのエピソード、浮気をしてしまった時の罪悪感の感じ方など、そうした滑稽さが巧みに表現されているのが面白かった。そしてラストでは、どこか大人びたヴェロニクの姿を感じる事が出来る。
あの天才が(あくまで私の観点では)こうした作品を書いた、と言うことは、次作はどう出るか?また元のように戻るのか、このまま突き進むのか、いずれにしろ、目が離せない作家である。次回は、イギリスが舞台の作品なんか、良いと思うなぁ〜♪

小さな白い車小さな白い車
(2005/08/11)
ダン・ローズ

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