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『エヴァ・トラウト』
- 2008/04/04(金) 08:08:42
エリザベス・ボウエン著/太田 良子 訳/国書刊行会
生後2ヶ月で母をなくし、事業家の父に育てられエヴァ。愛する事を知らず、何か重要な感情も欠如したような彼女は、大柄で人目を引く女性に育った。何かを求めているようで掴み所の無いエヴァは、常に何物かから逃れるように行方をくらまし、周囲を混乱に陥らせていた。そして不意にアメリカへと渡った彼女は、8年後に養子を連れて戻ってきたのだった。
いざあらすじを書こうと思ったら、難しいの何の。1つの事を書き始めると、物語が連鎖して全てを書かなくてはならなくて、1つを端折ると、残りの全てが意味を成さない。長い物語ではあるが、連綿と全てが繋がって切れ目が無い。実際は、8年の時を挟んで2つのパートに別れているのに、1人の人間の人生が決して途切れる事が無いように、エヴァの物語は、エヴァが関わった全ての人を繋げて1つにまとまっていると言った感じだ。
ちなみに、受賞はしていないが、ブッカー賞候補だ。ブッカー賞が苦手な私としてはかなり悩んだが、受賞していないと言うのが決めてになって読むことにした。途中何度か冗長だと感じて斜め読みした箇所もあったが、概ね面白く読めた・・・と思う。
語らずして語る・・・いや、語らずして語らず。物語の中では色々な事件が起こり、エヴァの過去には多くの出来事があり、彼女を取り巻く人々も個性豊かな面々だったようなのだが、殆ど語られる事は無い。あらすじと後書きをじっくり確認されたし。ドラマティックな要素をハッキリとは描かない、この『描かなさ』がかなり斬新だった。
エヴァに関する外観の記述、より深い洞察を得られる思考などは殆ど描かれていないにも関わらず、物語後半にはエヴァという人物がかなり深くまで理解できているのは不思議だ。そして大柄で不器用で、酷く陰鬱なのに奔放さもあるとらえどころの無い女性であるエヴァを、何となく可愛らしくすら感じている事に驚く。エヴァを中心に人々が回る理由が、何となく解る気がした。この作品は言わばエヴァそのもので、作品自体が擬人化してしまったように感じる。
この作品を研究している方にしてみれば、色々と学術的な論点もおありだろうが、私は単純に、孤独を深く抱えた女性が、愛し守るものを得、自力で人間らしさを取り戻す力強い話だと思った、エヴァはいささか陰鬱だが、飄々として他を寄せ付けない姿が、逆にイギリスの資本的上流階級の孤立感とも思えて、父譲りの高潔さなのだろうと判断できる。
だからこそ、だからこそ!あのラストはズルい、ズル過ぎる!!!あ〜れ〜は〜、文学者としてどうなの?許されるの?私はどうしても許せませんね、ズルいですね。文字数まで完璧に揃えたあのラスト、最後の1節。あえてか知らぬが、ラストページの裏は印字無しの無地のまま。続きを読もうとペラとめくってそこに文字が無かった時の衝撃は、思わずベッドから起き上がるほどのものだった。仕掛けられた企みに、まんまと乗ってしまった気分。
延々とエヴァの人生に付き合ったからこそ衝撃なのだが、逆の見方をすると、あれほど淡々と描かずして描いた物語の最後で、これほど衝撃を感じられるというのは確かに凄い。まさに『はぁ!?』というね(笑)。これ以上の印象は残せなかったろうと思えるほどのラストの潔さだが、それでも、ズルいとしか言いようが無いの。あのまま終わっていたら確かに『普通』の物語だし、あの姑息なラストはこの物語を昇華させるほどのインパクトはあったけどね、ズルい(笑)。
とは言いつつも、割に面白く読めたし、ズルいラストだと思いつつも、この著者の切れ味は堪能できた。こちら、ボウエン・コレクションとして今後2冊、併せて3冊のコレクションになる予定。読むな、多分次も読むな・・・(笑)。ちなみに既刊もあるので、機会を見つけて是非に。
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ジャンル:
- 小説・文学
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