『サルバドールの朝』
〔西/英〕SALVADOR (2006年)
監督:マヌエル・ウエルガ
原作:フランセスク・エスクリバノ
脚本:ユイス・アルカラーソ
ダニエル・ブリュール/トリスタン・ウヨア/レオナルド・スバラグリア/ホエル・ホアン オリオル/セルソ・ブガーリョ/メルセデス・サンピエトロ/イングリッド・ルビオ/レオノール・ワトリング
フランコ独裁政権の末期、若者達は自由を求めて暴動を起こし、多くの革命家を生み出した。温かい家庭に育ち、不自由の無い青年時代を送っていたサルバドール・ブッチ・アンティックも、そんな若者達の思いに共鳴するかのように反政府活動に没頭していく。そして不運が彼を襲い逮捕されてしまうのだが、その際に警官殺害の容疑を着せられてしまう。確実性は無かったものの言い逃れも難しく、サルバドールは死刑判決を受ける。多くの救済運動が行われる中、真っ当な裁判も無いままに死刑執行の日を迎えた。刻々と迫る時間の中、サルバドールを取り囲む家族との濃密な時間が流れていった・・・。
スペイン内戦やフランコ独裁政権のことは、正直言って余り良く知らない。スペインでは知らぬものがいないと言われている(公式HPの紹介より)本作の主人公だが、と言う事はスペインの政治的歴史に詳しい方は熟知されているはずであり、そうした方がこの映画をご覧になったら、果たして如何なる感想を持つのだろう?と気になった。
なぜかと言うと、衆目に愛されて救済活動も盛んに行われたという青年サルバドールが、逮捕される所以となった活動への原動力などの描き出しが弱く、傍観者的に。単なる流行としての反政府活動、どちらかと言ったらファッションとしてのアナーキスト気取りとしか見えなかったのだ。
反政府の活動も何だか無秩序で、描かれているのは、資金調達のための『銀行強盗』ばかり。リーダー的存在の人が激怒するように、単に暴れたいだけに感じられ、万が一逮捕されたとしても経歴に箔が付く、ぐらい簡単に考えていたように見えてしまった。だから、サルバドールに対する死刑判決は、当人含め仲間全員にとって、青天の霹靂だったろうなと思えてしまう。
ただ実際は、そんなはずは無いと思うのだ。こうした活動に対しては、そんなに適当な気構えでは関わらないだろう想像する。そうした『正義的』解り易い側面は、当たり前として描かなかったのかもしれないが、この映画が実際の姿だと思う人もいるだろうと考えると、やはり疑問が残る。
だから映画後半まで、妙に重苦しい雰囲気の割に何だこの描写は?と、微妙な思いがあった。そもそもサルバドールという青年の事が良く解らない、人物の描写もいまいち中途半端だ。死刑という運命を毅然と受け止めているのかと思わせるが、その根底にあるはずの理屈や強さが余り見えて来ない。私には、想定外の結末に動揺しているように見えたのだが?
で・す・が!『ラスト30分、感動の涙が止まらない』と、この映画の正式な紹介にはある。私は1粒の涙も流さなかったが、それは、もし意識的に呼吸をする生物で、30分ほど呼吸をしなくても生きていられる生態だったなら、恐らく呼吸する事を忘れただろうと思うほど集中していたから。涙の存在なんて、綺麗さっぱり忘れていた。ピクリと動く事すら忘れていた。
これほど映画に惹き込まれたのはいつ以来だろう?ラスト30分とは、そう、サルバドールが死刑の執行を待ち、そして処刑されるまでの時間なのだ。これは本当に、映画史に残る一連のシーンになっているのではないだろうか。あの緊張感と追い詰められた空気感、とにかく凄まじかった。私の語録や文才では、あの状況を到底表現できそうもないのが悔しい限りだ。演出やカメラワークなども良かったが、飛びぬけて演技が凄まじかった。派手ではないし、語りも少ない、動きも少ない。それでも、まさに呼吸を忘れるほどの演技。
もちろんサルバドール役のD・ブリュールがダントツ。よもや何かの段階を確実に飛び越えて高いところに行っちゃったなという感じ。演技という言葉が別次元のものに感じられるほど。スクリーンの中で、サルバドールとして生きたのだと信じさせてくれる迫力。なんだかあのまま、彼まで処刑されてしまうような危機感まで感じたぐらい。これまで数多くの良作に出演し、十分な存在感を見せてくれ、非常に将来が楽しみな役者ではあった。可愛い顔をしているなとも思っていたが、男臭さとか色気というのとは無縁と思っていたのに、これほど問答無用で『魅力的』と感じてしまうとは(笑)。彼も今年で30歳なのね、それも驚きだ(笑)。
それと、もう1つ驚いたのが、お髭ボウボウの看守役。やたらと素敵な瞳をしていて、それがボウボウのお髭と絶妙にミスマッチで・・・面白い印象。この人、髭が無かったら結構美男子なのでは?と思っていたら!『carmen.-カルメン』のL・スバラグリアだった・・・。スペインの役者って、ハビエル・バルデムといい、化ける時は化ける。これまた別の意味で言葉を失った。
それにしても、美貌を隠して演技に徹するその姿勢は素晴らしい(笑)、出会いの頃の憎しみから、徐々にサルバドールを慕うようになる看守、彼の胸中に渦巻いたろう複雑な感情を秀逸に表現していた。そして私は、まるで叙事詩のようなラストの流れの中で、この看守の一言で現実に引き戻されたのだ。あの一言が無かったら、鑑賞後も現実に戻れなくて相当凹んだ事だろう。
まとめてしまって申し訳ないのだが、その外、弁護士アラウ、サルバドールの姉妹達など、とにかく無駄の無い完璧な演技に、文字通りでないにしろ呼吸を忘れるほどの時間だったのだ。前半の若干意味不明なサルバドール達の描写を差し引いても、十分に観る価値のある映画になっている。演技を堪能する、そして少しばかりの知識と思想を学んでもみる。久々に、『映画に没頭する醍醐味』を、十分に思い出させてくれた素晴らしい1作。
ぽすれん『サルバドールの朝』紹介
監督:マヌエル・ウエルガ
原作:フランセスク・エスクリバノ
脚本:ユイス・アルカラーソ
ダニエル・ブリュール/トリスタン・ウヨア/レオナルド・スバラグリア/ホエル・ホアン オリオル/セルソ・ブガーリョ/メルセデス・サンピエトロ/イングリッド・ルビオ/レオノール・ワトリング
フランコ独裁政権の末期、若者達は自由を求めて暴動を起こし、多くの革命家を生み出した。温かい家庭に育ち、不自由の無い青年時代を送っていたサルバドール・ブッチ・アンティックも、そんな若者達の思いに共鳴するかのように反政府活動に没頭していく。そして不運が彼を襲い逮捕されてしまうのだが、その際に警官殺害の容疑を着せられてしまう。確実性は無かったものの言い逃れも難しく、サルバドールは死刑判決を受ける。多くの救済運動が行われる中、真っ当な裁判も無いままに死刑執行の日を迎えた。刻々と迫る時間の中、サルバドールを取り囲む家族との濃密な時間が流れていった・・・。
スペイン内戦やフランコ独裁政権のことは、正直言って余り良く知らない。スペインでは知らぬものがいないと言われている(公式HPの紹介より)本作の主人公だが、と言う事はスペインの政治的歴史に詳しい方は熟知されているはずであり、そうした方がこの映画をご覧になったら、果たして如何なる感想を持つのだろう?と気になった。
なぜかと言うと、衆目に愛されて救済活動も盛んに行われたという青年サルバドールが、逮捕される所以となった活動への原動力などの描き出しが弱く、傍観者的に。単なる流行としての反政府活動、どちらかと言ったらファッションとしてのアナーキスト気取りとしか見えなかったのだ。
反政府の活動も何だか無秩序で、描かれているのは、資金調達のための『銀行強盗』ばかり。リーダー的存在の人が激怒するように、単に暴れたいだけに感じられ、万が一逮捕されたとしても経歴に箔が付く、ぐらい簡単に考えていたように見えてしまった。だから、サルバドールに対する死刑判決は、当人含め仲間全員にとって、青天の霹靂だったろうなと思えてしまう。
ただ実際は、そんなはずは無いと思うのだ。こうした活動に対しては、そんなに適当な気構えでは関わらないだろう想像する。そうした『正義的』解り易い側面は、当たり前として描かなかったのかもしれないが、この映画が実際の姿だと思う人もいるだろうと考えると、やはり疑問が残る。
だから映画後半まで、妙に重苦しい雰囲気の割に何だこの描写は?と、微妙な思いがあった。そもそもサルバドールという青年の事が良く解らない、人物の描写もいまいち中途半端だ。死刑という運命を毅然と受け止めているのかと思わせるが、その根底にあるはずの理屈や強さが余り見えて来ない。私には、想定外の結末に動揺しているように見えたのだが?
で・す・が!『ラスト30分、感動の涙が止まらない』と、この映画の正式な紹介にはある。私は1粒の涙も流さなかったが、それは、もし意識的に呼吸をする生物で、30分ほど呼吸をしなくても生きていられる生態だったなら、恐らく呼吸する事を忘れただろうと思うほど集中していたから。涙の存在なんて、綺麗さっぱり忘れていた。ピクリと動く事すら忘れていた。
これほど映画に惹き込まれたのはいつ以来だろう?ラスト30分とは、そう、サルバドールが死刑の執行を待ち、そして処刑されるまでの時間なのだ。これは本当に、映画史に残る一連のシーンになっているのではないだろうか。あの緊張感と追い詰められた空気感、とにかく凄まじかった。私の語録や文才では、あの状況を到底表現できそうもないのが悔しい限りだ。演出やカメラワークなども良かったが、飛びぬけて演技が凄まじかった。派手ではないし、語りも少ない、動きも少ない。それでも、まさに呼吸を忘れるほどの演技。
もちろんサルバドール役のD・ブリュールがダントツ。よもや何かの段階を確実に飛び越えて高いところに行っちゃったなという感じ。演技という言葉が別次元のものに感じられるほど。スクリーンの中で、サルバドールとして生きたのだと信じさせてくれる迫力。なんだかあのまま、彼まで処刑されてしまうような危機感まで感じたぐらい。これまで数多くの良作に出演し、十分な存在感を見せてくれ、非常に将来が楽しみな役者ではあった。可愛い顔をしているなとも思っていたが、男臭さとか色気というのとは無縁と思っていたのに、これほど問答無用で『魅力的』と感じてしまうとは(笑)。彼も今年で30歳なのね、それも驚きだ(笑)。
それと、もう1つ驚いたのが、お髭ボウボウの看守役。やたらと素敵な瞳をしていて、それがボウボウのお髭と絶妙にミスマッチで・・・面白い印象。この人、髭が無かったら結構美男子なのでは?と思っていたら!『carmen.-カルメン』のL・スバラグリアだった・・・。スペインの役者って、ハビエル・バルデムといい、化ける時は化ける。これまた別の意味で言葉を失った。
それにしても、美貌を隠して演技に徹するその姿勢は素晴らしい(笑)、出会いの頃の憎しみから、徐々にサルバドールを慕うようになる看守、彼の胸中に渦巻いたろう複雑な感情を秀逸に表現していた。そして私は、まるで叙事詩のようなラストの流れの中で、この看守の一言で現実に引き戻されたのだ。あの一言が無かったら、鑑賞後も現実に戻れなくて相当凹んだ事だろう。
まとめてしまって申し訳ないのだが、その外、弁護士アラウ、サルバドールの姉妹達など、とにかく無駄の無い完璧な演技に、文字通りでないにしろ呼吸を忘れるほどの時間だったのだ。前半の若干意味不明なサルバドール達の描写を差し引いても、十分に観る価値のある映画になっている。演技を堪能する、そして少しばかりの知識と思想を学んでもみる。久々に、『映画に没頭する醍醐味』を、十分に思い出させてくれた素晴らしい1作。
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