『シーオグの祈り』

  • 2008/04/20(日) 02:48:30

ジェイムズ・ヘネガン著/佐々木 信雄 訳/ランダムハウス講談社
もう直ぐ14歳になる孤児のトム・マレンは、学校近くの工事現場に忍び込み、大きな穴の中に落ちてしまう。そして落ち着いた先は、トムの住むリヴァプールから遠く離れた、アイルランドの荒涼とした島だった。そこで出会ったモナガン一家、次男タリーは何故かトムにそっくりで、その妹ハナは純真で愛らしかった。時は19世紀、ジャガイモ飢饉の真っ只中。現代に帰る術を知らないトムだったが、里親を転々とした彼にとっては、初めて知る家族の温かみだったのだ。果たして、トムが19世紀のアイルランドに来た事にいかなる意味があるのか?過酷な状況を必死に生き抜くモナガン一家と行動を共にするトムは、厳しさの中で頼れる愛情を見出していく。


どんだけ感動させれば・・・もうホントに、電車の中で何度泣きそうになった事か。『リヴァプールの空』で感動を呼んだという触れ込みの、ああ、私にも大きな感動を呼びまくった作者の、どっぷりアイルランドに絡んだ待望の翻訳新作だ。ランダムハウス講談社さんありがとう!と、出版社にすらお礼を言いたい気分。図書館から借りたのだが、『本泥棒』に続いて、『返したくない〜』と1人勝手に駄々をこねた作品となった。
もうね、良いたい事は山程ある。でも何から書いたら良いのか解らない。脳内で渦巻いちゃってる。全く整理が着かないけど、そのままの状態で私は十分満足なのだ。感想放棄(笑)。
とにかくこの作者、胸に響く良い文章を書く。派手でも大袈裟でもないけど、堅実で心のこもった文章なのだ。だからこそ、青少年向け作品であっても、大人も十分に楽しめるクオリティを保っている。それに、少年の瑞々しい強がりや傷つき易さなどが実に自然に描かれているので、大人としては新鮮な気持ちで読めるし、同年代の子供達でも、素直に受け止める事ができるだろう。
『リヴァプールの空』もそうだったし、翻訳されていないこの他の作品の概要を見てみても、比較的史実にある出来事を題材にして描いてるようだ。本作は、実際にリヴァプールであった大量の柩発掘に関する事件を元に、家族を知らず、孤独の中で生きて来た少年が、過酷な状況でも共に過ごしたいと切望する、『家族』という存在を見出す物語に仕上げていく。勿論、名も無く、記録もされず、発掘されては全て焼却されてしまったという多くの柩に込められた物語を、著者なりの解釈で感動的に組み込んでいる。非常に教訓的でもあり勤勉な内容でもあるのだが、物語の面白さから、その堅苦しさは一切感じられない。
感動的に素晴らしい、素朴さが愛おしい、子供達のひたむきさが苦しくも逞しい。アイルランド国内において、余りにも大勢の人々の命を奪ったジャガイモ飢饉。その話は何度も触れたことがあるし、この作品の悲惨さが全てとも真実無二とも思わないが、事実を伝える一助であり、この出来事を、悲惨さを、衝撃を伝える秀逸な作品でもある。そして、過酷な状況において、人は何を求めるのか、何において、生きる希望を見出すのか。その時人は、いかに強くあれるのか?こうした事も、大袈裟にならず、制御の効いた丁寧な筆致で描かれているのが好ましい。
さて、ラストにおいて、実はちょっと困った部分がある。余りにも話が上手すぎるのだ。ちょっと子供騙しに過ぎる。最初は随分戸惑ったが、上手すぎたとしても、満足の行く結末ではあるのだ。満足も満足なのだが、やはりちょっとね、簡単すぎる。
そこでちょっと考えたのだが、物語の中ほどに、この結末の楽観主義を緩和してくれる記述があった事に思い至ったのだ。だから良いのだ、モナガン一家の為に奔走したトムだからこそ、最後に自分の願いが叶う。彼が過去へと旅立ったのは、このスムーズなラストの展開への布石だったのだろうと。そう思ったら全てがスッキリしたのだ。ただ単純に、満足だけが残った。
のだが!?やはりこの都合の良すぎるラストに関しては、各所で批判が相次いだらしく、アメリカで出版された別版では、ラストが書き換えられて章立てまで変わっているという。変える必要は無いとは思いながらも、別のラスト、、、それはそれで読んでみたい。間違いなく悲壮な色は濃くなっているだろうが、感動の度合いも高くなっているような気がする。思わず、海外書店の購入ボタンを押しそうになった(笑)。
この著者、他の作品の多くでも賞を受賞する、実力は折り紙付きの作家だ。より多くの作品が日本でも翻訳される事を心より願って、久々に、閉じたく無くなる作品を楽しめた事に感謝したい。

シーオグの祈りシーオグの祈り
(2007/11/30)
ジェイムズ ヘネガン

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