『敬愛なるベートーヴェン』

〔英/ハンガリー〕COPYING BEETHOVEN (2006年)
監督:アニエスカ・ホランド
脚本:スティーヴン・J・リヴェル/クリストファー・ウィルキンソン
エド・ハリス/ダイアン・クルーガー/マシュー・グード/ジョー・アンダーソン/ビル・スチュワート/ニコラス・ジョーンズ/フィリーダ・ロウ/ラルフ・ライアック

交響曲第9番完成間近、ベートーヴェンの作業は遅々として進んでいなかった。病のために、仕事の中断を余儀なくされた写譜師の変わりに、アンナ・ホルツが音楽学校から派遣された。彼女の成績は首席で、かつベートーヴェンを深く敬愛していたものの、粗雑なベートーヴェンには気圧されるばかりだった。余りにも自信の音楽を理解するアンナに信頼を寄せ始めたベートーヴェンは、共同で作業を完成させ、歴史的な名作、2時間に渡る交響曲の初演を迎える事が出来たのだ。晩年のベートーヴェンに焦点を当て、知られざる一面を素晴らしい楽曲と共に描いた作品。

ベートーヴェン死の間際、日本の大晦日でもお馴染みの、交響曲第9番完成の頃を描いた作品なので、いわゆる伝記映画とはちょっと違う。それでも、天才的な音楽家でありながら、耳が聞こえなくなったベートーヴェン。困難を克服した偉人として、学校でも教えられた人は多いはず。
宮廷に出入りしていた時代の作曲家とは違い、ベートーヴェンに対する私の印象は、かなりの庶民派だった。伝えられる話からも、粗雑で横暴な人だったらしいとは理解していたので、果たしてこの映画、かなり小奇麗に描いてはいないだろうか?なんて邪推してしまう(笑)。
晩年のベートーヴェンを、仕事と精神面の両方で支えたように描かれているアンナは架空の人物だ。HPを確認してみると『未だ謎に包まれている3人目のコピイスト』がどうのこうのと書いてあるが、これは・・・、ソフトな言い訳と、眩惑するための宣伝文句と思われる。
何で今更?というのが正直な感想。実際にアンナ・ホルツという人がいて、ベートーヴェンと映画のような良好な関係を築いたというのなら、それは隠れざる話と言う事で十分映画にする価値はあると思うが、世界的に有名なベートーヴェンという人を中心に据えて、伝記でも無く、舞台背景も諸事情も史実に則した、架空の物語を作った意図が解らない。
ベートーヴェンという確固たる実在の人物の、今尚褪せる事の無い強烈な存在感と、アンナ・ホルツという、余りにも虚弱な架空の人物のそれとが噛合っていない。その割に物語上では、余りにも大きな役割を持つアンナ。歴史を書き換えてしまうほどの存在を担うには、幾らD・クルーガーが美しく、良い演技を披露しようとも、漠然とした存在感の欠如は否めない。
全体的に魅せる部分の多い映画ではあったのだが、浮かび上がる3文的な虚飾感が払拭できなくて、やたらと薄っぺらに感じてしまった。ベートーヴェンが病に倒れる様も、実験的な楽曲を発表するのも事実かもしれないが、虚構との狭間が無くて、陳腐な逸話に思えた。
要するにこの映画、どう捉えたら良いのか解らないのだ。『アマデウス』のように、実在した音楽家に虚構の個性を与えたフィクションなら面白いと思う。恐らく本作は、サリエリが男性だったのに対し、アンナが女性だったのが問題なのではないだろうか?だからこそ、真実に寄り添うように存在する虚飾のままではいられず、真実に無理やり食い込んでいく強引さに繋がってしまうのでは?男女の繋がりを描く中で、およそ傍観的な距離感を持続するのは難しい。だからと言って、アンナがいないと生きていけない!という程までにベートーヴェンを描いた事が、この不安定感を私に与えた要因のような気がする。
雰囲気も役者も良かったので、なんとも勿体無い・・・という思いが強い。伝記かフィクションか、ベートーヴェンの映画なのか彼は単なるキャラクターなのか、その辺をもう少しはっきりさせてくれていたら、良かったのにと思う。・・・なんだか、白黒ハッキリさせたい、A型気質が裏目に出たような感想で失礼(笑)。

敬愛なるベートーヴェン敬愛なるベートーヴェン
(2007/11/07)
エド・ハリス.ダイアン・クルーガー.マシュー・グッド.フィリーダ・ロウ.ニコラス・ジョーンズ.ラルフ・ライアック

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ぽすれん『敬愛なるベートーヴェン』紹介
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