『白夜』

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー著/小沼 文彦 訳/角川文庫
ペテルブルクで暮らす青年は深い孤独の中にあり、人々や物との付き合いを空想の中に見出し、次第にその深みに埋没していた。しかしある夜、彼はナースチェンカという女性を助ける。それをきっかけに2人の友情は深まっていくものの、彼は募る思いを打ち明ける術を持たなかった。そしてナースチェンカは、遠くにいる恋人の秘密を打ち明け、彼に助力を求めるのだった。

もう今更この著者の作品に至っては、私如きがとやかく言う事も無いだろう。長いこと『カラマーゾフの兄弟』が読みたいなぁ・・・と思っている。『罪と罰』に至っては、かれこれ3年ほど前から手元にある。・・・いぃ〜の!!!私はロシアの巨匠の、こういう小ぶりな作品が好きなのだ。
静謐とも表現できそうな落ち着き、余計な飾りを排除したような朴訥な文章。それゆえに短く、しかし中身の濃い短編に仕上がっている。奔放さと純粋さを兼ね備え、かつての繁栄を僅かにに匂わせ、それでいて庶民らしさが満ちている物語の世界。私自身が『ロシア』に対して抱いている印象がかなり大きく手伝ってはいるのだが、どこか閉鎖的な印象があり、そのぶん幻想的な味わいもある作品が多い、、、ような気がする(笑)。
とまぁね、なんだかんだ小奇麗にまとめようと思いつつ、主人公は『空想癖』の大分進行した男だ。空想のし過ぎで現実生活の記憶がぶっ飛んでる、現実逃避を乗り越えて、よもやトリップ状態。はっきり言わせて頂くと、単なる『妄想』だよね、まずヤバイんですってば。
それなのに、ああ、それなのに、どこまでも清純で胸が痛む程の美しさを感じるこの片思い。『妄想』を、確実に正当化できる高みに引き上げる筆致の巧みさ。己の妄想を延々と語る青年の言葉の奥に、彼が無意識に耐え忍んできた孤独が強烈に見えてくる。
生身の愛する相手を手に入れた青年が、程よく生気に満ちて現実に立ち戻っていく様、ナースチェンカに対する溢れ出る愛情を一心に、しかし絶望的に語るその気持ち。様々な恋愛小説を読むが、こうした古典の率直さや純粋さに勝る切なさは無い。
大体ねぇ・・・私もかなりの妄想癖所持者だから(笑)、主人公には妙な親近感よ。さすがに現実生活の記憶が無くなるほどではないし、現実社会への満たされない憧れを、妄想で回復させようとリアルな想像を張り巡らしたりはしないが、いや、でも解るよ(笑)。
この妄想・・・じゃなくて『空想癖』というのは、ドストエフスキーの作品では重要な人物特徴の一環らしいのだが、この作品に至っても、罪の無い空想を通して主人公の孤独を描き出し、しかしその空想に安らぎも感じさせ、必要不可欠な存在であると読者に認識させながらも、、結果的にはやはり、主人公には空想を持たない常人よりも痛烈な孤独が迫ってくる事を感じさせる。
隠喩的使い方でも無いのだが、その内容では無しに、空想するという行動自体よって、主人公の置かれた立場や存在感が幾重にも変わるように感じた。しかしその根底に根ざして、決して薄れる事の無い孤独というものが、何故かこの物語に美しさと現実感の無さを与える。はぁ〜、やっぱり良いよねぇ、時代に淘汰され、今尚読み継がれる巨匠の名作というのは、とにかくじっくり楽しめる。古のロシア、白夜の夜に、遠く橋の欄干にもたれ掛かる1組の男女。時刻は遅いはずなのに、いやに明るく見える彼等の姿・・・。そんな幻想的な風景を想像しつつ、最近の倦み疲れた私の脳には、実に有意義なエクササイズ効果があった。巨匠サンキューなのだ。

白夜 (1958年) (角川文庫)白夜 (1958年) (角川文庫)
(1958)
ドストエフスキー

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ケルトさん、こんばんわ。
コメントありがとうございます。

薄い古典って、入り易いですよね(笑)。

他の作品も読破されたようで、敬服いたします。
私はまだ等分、先延ばしにしそうな気配ですから(笑)。
ペテルブルグ、美しい宮殿・・・確かに1度訪れたい場所だと思います♪
2008/05/31(土) 22:56:54 | URL | hiyo #B9A5zm5U[編集]
私も「白夜」から
はじめまして。ケトルと申します。
私もドストエフスキーは「白夜」から入りました。
そう、一番薄い本だったので(笑)
ここ2年程で長編5大作を読み終えたのですが、
投げ出したくなるような濃ゆーいキャラの連続に、
溜息を吐きながらも止められず読み続ける自分・・。
なんだか己に潜む妙なM要素を発見するに至りました(笑)
それにしてもペテルブルグってとこは・・。
一度訪れてみたくなりますね。
2008/05/31(土) 15:54:14 | URL | ケトル #G3wBYoLU[編集]

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