『ONCE ダブリンの街角で』
〔愛〕ONCE (2006年)
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ/ヒュー・ウォルシュ/ゲリー・ヘンドリック/アラスター・フォーリー/ゲオフ・ミノゲ/ビル・ホドネット/ダヌシュ・クトレストヴァ/ダレン・ヒーリー/マル・ワイト/マルチェラ・プランケット/ニーアル・クリアリー ボブ
ダブリンの街角、多くのストリート・ミュージシャンが夢を追いかけ、既に生活の一部になった音楽を楽しむ場所。1人の男が、穴の開いたギターを手に、自作の歌を披露する夜。通りかかったチェコ移民の若い女は、その歌を良いと褒めてくれた。女はピアノを弾くので、2人は町中の楽器店で小さなセッションをする。呼応する音楽性と孤独な境遇。それぞれに愛する人を心の中に持ち、それでも満たされない思い。やがて男は、長年の夢を形にしようと思い、女はその夢の手助けをする事を承諾する。そして、幾つもの素晴らしいメロディーが録音されていくのだった。
これは・・・私にとっては感想を書くのがかなり難しい作品だ。なんと言ってもダブリンが舞台!となれば、冷静な判断は難しい(笑)。しかも主演は、映画『ザ・コミットメンツ』でジミーをバンドのマネージャーに引き入れるアウトスパン役のG・ハンサード。なんだか、あの名作ともダブる仕掛けに感じられる(多分に個人的だけど)。
『ザ・コミットメンツ』が、アイルランドの現代(80年代当時)を切り取って、若者たちが音楽に情熱をかける姿を、卓越した物語に絡ませて『映画らしく』表現した『青春映画』とするなら、本作は、『映画らしさ』を意識しないドキュメンタリー風の映像と、簡素な脚本、シンプルな演出で、アイルランドの現在(2006年当時)を切り取るどころか丸ごとすくい取ってフィルムに写し、会話が下手な主人公たちの心の動き、感情の奥深く、様々な事柄を音楽によって語る、言い方を変えればこれは、『音楽』が唯一の主役だとも言える、秀逸な『音楽映画』である。
まるでハンディビデオのような映像、飾りの無い拙い台詞、風合いも荒削りで、それだからこそ、自分の旅行写真を眺めている気にもなるダブリンの街並み。余りにも『今』のダブリンの姿を如実に映し出すそのシンプルさ、飾りも何も無く、かといって削り取ったものも無い。主人公たちの暮らす家、日々の時間に見え隠れするダブリンは、あたかも今その地を訪れているような錯覚を覚えさせる。雑踏に揺さぶられた空気に乗って、漂ってくる異国の様々な匂い。踏みしめて歩く石畳の道の感触すら、足元に伝わって来るかのように感じられる。
沢山の人波に紛れて、何度も歩き過ぎたグラフトン通り。喧騒を楽しく眺めたテンプル・バー。僅かな太陽を楽しもうと訪れた、緑豊かなセント・スティーブンス・グリーン。ダブリンを訪れた事があって、あの町に堪らない魅力を覚えた人ならば、間違いなくこうした記憶を呼び起こす映画だろう。そして気が付くのは、そうした記憶の片隅に既に紛れ込んでいる、穴の開いたギターを抱えて歌うストリート・ミュージシャンと、真っ赤なバラの入ったバケツを抱えて歩く移民女性の姿だ。
映画の中で、人生でたった1度と思える大切な出会いをした男と女。きっとこの2人の姿は、ダブリンの街角で歌い続ける多くのストリート・ミュージシャン、アイルランドにも数多くいる、強く逞しく生きる東ヨーロッパからの移民者達、そんな彼等を濃縮した姿なのだろうと思った。だから特別な物語は無くても良い、特別な名前も必要ないのだろう。
アイルランドが、常にその存在と密接に結びついてきた音楽、多くの優れた筆者を生み出した詩情。そうしたかけがえの無い存在を通して、とても素敵で、控え目だけど希望に溢れた出会いを描いた作品だ。これまでも、そしてこれからも、ダブリンの街角で、幾度と無く繰り返されるであろう、音楽と人との出会いを。運命に紛れ、そして少しだけそれを変える、人と人との出会いを。
宣伝サイドはやたらと『ラブ・ロマンス』を強調したいようだが、実際この映画のロマンス度は低い。低いのだが、なんとも・・・じれったい淡い恋心が柔らかく心を締め付ける。しかし人生って、恋だ愛だとばかりは言っていられない、人生の転換期、踏ん張り所って時もあるだろう。
例えばそんな時に、背中を押してくれる人、誰よりも深い理解と共鳴を持ってくれる人、そんな人と出会えたらきっと、その先の展開は上手く行くと信じられる。自分のために、勇気付けてくれた人のために、倍の希望をもって歩けるようになる。G・ハンサードの軽くなった肩、颯爽と歩く姿を見ていたら、そんな明るい希望の淡い光を、全身に浴びている気持ちになった。そしてラストで初めて、主役の男と女の人生が、改めて再び動き始めたのだと思った。
それにしても、私熱いな(笑)。アイルランド好きというのが、どれほどのフィルターになっているのか、よもや判断不能。かなり過大評価をしている事は間違いないのだろうが、アメリカでの口コミでのロングランヒット、アカデミー賞歌曲賞受賞、その他錚々たる賞へのノミネートの数々。そうさ、間違いないのさ、これはまさしく、人々の心に響く素晴らしい映画なのだ。
ぽすれん『ONCE ダブリンの街角で』紹介
監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ/ヒュー・ウォルシュ/ゲリー・ヘンドリック/アラスター・フォーリー/ゲオフ・ミノゲ/ビル・ホドネット/ダヌシュ・クトレストヴァ/ダレン・ヒーリー/マル・ワイト/マルチェラ・プランケット/ニーアル・クリアリー ボブ
ダブリンの街角、多くのストリート・ミュージシャンが夢を追いかけ、既に生活の一部になった音楽を楽しむ場所。1人の男が、穴の開いたギターを手に、自作の歌を披露する夜。通りかかったチェコ移民の若い女は、その歌を良いと褒めてくれた。女はピアノを弾くので、2人は町中の楽器店で小さなセッションをする。呼応する音楽性と孤独な境遇。それぞれに愛する人を心の中に持ち、それでも満たされない思い。やがて男は、長年の夢を形にしようと思い、女はその夢の手助けをする事を承諾する。そして、幾つもの素晴らしいメロディーが録音されていくのだった。
これは・・・私にとっては感想を書くのがかなり難しい作品だ。なんと言ってもダブリンが舞台!となれば、冷静な判断は難しい(笑)。しかも主演は、映画『ザ・コミットメンツ』でジミーをバンドのマネージャーに引き入れるアウトスパン役のG・ハンサード。なんだか、あの名作ともダブる仕掛けに感じられる(多分に個人的だけど)。
『ザ・コミットメンツ』が、アイルランドの現代(80年代当時)を切り取って、若者たちが音楽に情熱をかける姿を、卓越した物語に絡ませて『映画らしく』表現した『青春映画』とするなら、本作は、『映画らしさ』を意識しないドキュメンタリー風の映像と、簡素な脚本、シンプルな演出で、アイルランドの現在(2006年当時)を切り取るどころか丸ごとすくい取ってフィルムに写し、会話が下手な主人公たちの心の動き、感情の奥深く、様々な事柄を音楽によって語る、言い方を変えればこれは、『音楽』が唯一の主役だとも言える、秀逸な『音楽映画』である。
まるでハンディビデオのような映像、飾りの無い拙い台詞、風合いも荒削りで、それだからこそ、自分の旅行写真を眺めている気にもなるダブリンの街並み。余りにも『今』のダブリンの姿を如実に映し出すそのシンプルさ、飾りも何も無く、かといって削り取ったものも無い。主人公たちの暮らす家、日々の時間に見え隠れするダブリンは、あたかも今その地を訪れているような錯覚を覚えさせる。雑踏に揺さぶられた空気に乗って、漂ってくる異国の様々な匂い。踏みしめて歩く石畳の道の感触すら、足元に伝わって来るかのように感じられる。
沢山の人波に紛れて、何度も歩き過ぎたグラフトン通り。喧騒を楽しく眺めたテンプル・バー。僅かな太陽を楽しもうと訪れた、緑豊かなセント・スティーブンス・グリーン。ダブリンを訪れた事があって、あの町に堪らない魅力を覚えた人ならば、間違いなくこうした記憶を呼び起こす映画だろう。そして気が付くのは、そうした記憶の片隅に既に紛れ込んでいる、穴の開いたギターを抱えて歌うストリート・ミュージシャンと、真っ赤なバラの入ったバケツを抱えて歩く移民女性の姿だ。
映画の中で、人生でたった1度と思える大切な出会いをした男と女。きっとこの2人の姿は、ダブリンの街角で歌い続ける多くのストリート・ミュージシャン、アイルランドにも数多くいる、強く逞しく生きる東ヨーロッパからの移民者達、そんな彼等を濃縮した姿なのだろうと思った。だから特別な物語は無くても良い、特別な名前も必要ないのだろう。
アイルランドが、常にその存在と密接に結びついてきた音楽、多くの優れた筆者を生み出した詩情。そうしたかけがえの無い存在を通して、とても素敵で、控え目だけど希望に溢れた出会いを描いた作品だ。これまでも、そしてこれからも、ダブリンの街角で、幾度と無く繰り返されるであろう、音楽と人との出会いを。運命に紛れ、そして少しだけそれを変える、人と人との出会いを。
宣伝サイドはやたらと『ラブ・ロマンス』を強調したいようだが、実際この映画のロマンス度は低い。低いのだが、なんとも・・・じれったい淡い恋心が柔らかく心を締め付ける。しかし人生って、恋だ愛だとばかりは言っていられない、人生の転換期、踏ん張り所って時もあるだろう。
例えばそんな時に、背中を押してくれる人、誰よりも深い理解と共鳴を持ってくれる人、そんな人と出会えたらきっと、その先の展開は上手く行くと信じられる。自分のために、勇気付けてくれた人のために、倍の希望をもって歩けるようになる。G・ハンサードの軽くなった肩、颯爽と歩く姿を見ていたら、そんな明るい希望の淡い光を、全身に浴びている気持ちになった。そしてラストで初めて、主役の男と女の人生が、改めて再び動き始めたのだと思った。
それにしても、私熱いな(笑)。アイルランド好きというのが、どれほどのフィルターになっているのか、よもや判断不能。かなり過大評価をしている事は間違いないのだろうが、アメリカでの口コミでのロングランヒット、アカデミー賞歌曲賞受賞、その他錚々たる賞へのノミネートの数々。そうさ、間違いないのさ、これはまさしく、人々の心に響く素晴らしい映画なのだ。
![]() | ONCE ダブリンの街角で デラックス版 (2008/05/23) グレン・ハンサードマルケタ・イルグロヴァ 商品詳細を見る |
ぽすれん『ONCE ダブリンの街角で』紹介
COMMENT
Comment Form
TRACKBACK
TrackBack List
| HOME |








