『風をつむぐ少年』

ポール・フライシュマン著/片岡 しのぶ 訳/あすなろ書房
16歳のブレントは、父親の仕事の都合で転校を繰り返していた。新しくシカゴへ越してきたブレントは、押しかけたパーティーで女の子に恥をかかされる。頭に血が上ったままの帰り道、強いお酒を飲んだこともあってか、ブレントは自殺を試みる。しかし、中央分離帯に激突したブレントは死なず、その事故に巻き込まれた18歳の優等生、リーという少女が亡くなってしまう。激しい罪の意識に囚われたブレントは、リーの母親の希望のままに、アメリカの4隅に『風の人形』を立てるため、13,000キロにも渡る贖罪の旅に出る。

種をまく人』に続いて、P・フライシュマン2冊目だ。全体的に穏やかな印象だった前作と違い、あっけなく自殺を試みる少年、その事故に巻き込まれて亡くなってしまう、まさに天使のような少女リーという衝撃的な事故がベースになっている。
彼女はなぜ死ななければならなかったのか?母親の言葉が胸を打つ、そして、ブレントの旅の過程で、幾度と無く語られる『リーの事』も。『死』にも何か意味があるのか、死んでなお輝ける存在であるために。人間が生きるという事、その先にある死というもの、そして少年の再生の物語。前作に比べたら、大分切れ味が鋭く、より現実的な側面が強いと言えるだろう。
この著者で良いなぁと思う所は、酷く扇情的な内容であるはずなのに、少しもそれを感じないところだ。感動させて泣かせようと思えば、幾らでも盛り上げられる題材を描いていながら、その影を極力押さえ、それでいて胸に染み入る作品を巧みに描き上げるところ。
だから読了後は、とても優しい気持ちになれる。作品全体から、限りなく優しいオーラを感じるからだ。汚く過酷な現実を突きつけて、そこから涙ながらの再生物語というのもありだろう。しかしこの著者の場合は、余りそうした現実的な『汚さ』を感じないのだ。
かと言ってそうした現実感を軽んじている訳ではなく、若者の安直な自殺願望、未熟な精神には大きすぎる罪の意識、自己を破壊するかのような流行の追求、他人に媚諂うことの無意味さなどなど、それこそ沢山の『現実社会』が描かれている。ただそれを、とても巧みに物語に融合させ、暖かい人間観察による優れた文章の影に潜ませているだけなのだ。
主人公ブレントは、始めこそ『今風』な高校生だったものの、次第に過去と決別し、表面だけの人間性の浅はかさに気が付いていく。『大人になった』とは思わないが、ラストでは立派になったなぁとしみじみ感じ入る。この旅を足がかりにして、人の痛みを理解する、懐の深い人間になっていくだろうと思わせる。小説のキャラクターなのにこうした期待を抱かせる、ある意味人間味のあるキャラクター構築は、前作では余り感じなかった事だ。
長い旅を経てブレントが立てた『風の人形』は、立てられた各所で、人々の心に小さな奇跡を起こす。それは数年先の事だったり、ほんの少し後のことだったりするのだが、そうしてブレントの活動は、リーの思い出と共に波紋を広げていくのだ。
この作品を読んで改めて、人間の行動の先には、無数の結果が生み出されるのだと実感した。私が日々過ごす時間の中にも、こうした暖かい波紋が生まれる事はあるのだろうか?そうあるように務めたいとつくづく思う、せめて、心の中に風の人形を立てようか(笑)。

風をつむぐ少年風をつむぐ少年
(1999/09)
ポール・フライシュマン片岡 しのぶ

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