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『やんごとなき読者』

2009年07月05日

アラン・ベネット著/市川 恵里 訳/白水社
英国の代表、女王エリザベス二世がペットのコーギーを追って出会ったのは、王室敷地内の外れにひっそりと来ていた、移動図書館だった。偶然から始まった女王の『読書』熱は、首相を始めとする国の偉い方々には大不評だったが、女王はそんなお小言を気にもせず、せっせと読書に勤しむのだった。

ミステリの生みの親、名立たる詩人の宝庫、偉大なる作家が数多く眠る地イングランド、しかし女王陛下は忙しくて読書が出来ない!?老齢になって初めて読書の楽しみを知る、しかもそれが、世界でも数少ない『女王』という職業の婦人だったらどうだろう?とてつもないプロット、奇想天外な語り、そして最高に面白い作品だった。
主人公はエリザベス二世だが、広い視点で見れば、著者なりの『読書の薦め』と言えそうな本作。知識豊富で経験も豊富なエリザベス女王が、読書を通して新しい世界を見出していく様は、読書好きに馴染みあり共感出来る過程だろうし、読書が苦手だと思っている人も、この作品の次にもう一冊・・・と思わせる愛情に満ちている。
手探り状態でも、次々と新しい作品に没頭していく女王。読書人生24年になった私にとっては遠い思い出ではあるが、当時のワクワク感は今でもハッキリ覚えている。
あの頃の感動を今も覚えているから、私は多分、読書を辞められないのだと思う。そういえば私は、アガサ・クリスティってこんなにたくさん本を出しているのか!と狂喜した思い出があるが、女王は同じ想いを、アリス・マンローに対して抱く(笑)。
気付かぬ内に読む本の質が上がり、周囲の意見と同調できないと感じる作品が出てくる時期がある。読み手の実力不足と自分を責めるのではなく、読み手として本を熟考して判断を下せる自信が付いて来た証拠なのだ。そして丁度その頃、女王は重大な決断を下す。ある意味、驚きのラスト、乞うご期待(笑)。
読書を始めたばかりの頃は、出会う本の一冊毎がとても重要。1つでも道を誤れば、その人は読書から遠く離れてしまうだろう。その辺さすが英国人だけあって、女王は実に羨ましい出会いを続ける。続々と繰り出される大作家達の名前に、欧米文学がお好きな方は、ニヤニヤ笑いが止まらないだろう。
文学や娯楽作を『読書』するという行為、完全な暇潰し以外は、確かに実に生産性の無い無駄な行為とも思える。しかし否応無く惹きつけられるその魅力を、本作は女王の姿を通して語っていく。しかもその筆致が結構シニカルで時折ブラック。日本版の作品があったら、間違いなく発表されないだろう・・・と思えるような(笑)。だけど、何か猛烈な愛情が奥に秘められているような感じがして、気なる毒気は無い。
何か良いなあ〜、ただ『小説を読む』というだけの話を、捻ったプロットと上質な筆致でここまで面白く描いてしまう。途中何度も頷きながら、常に晴れやかな気持ちで読書が出来る。久し振りに、『読書』の楽しみを堪能した作品だ。この本が『初めての1冊』である人はとてもラッキーだと思う、心底羨ましい。2冊目、3冊目にも最良の出会いをして、ぜひ、女王陛下のような読み手になって頂きたい(笑)。

やんごとなき読者やんごとなき読者
(2009/03/11)
アラン ベネット

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