2011/07/07 00:08
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読書【シリーズ】
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Edit】
ブレンダン・オキャロル著/伊達 淳 編/恵光社3年前に突然家長を失ったブラウン一家だったが、母アグネスの大らかな教育の元、子供たち7人は無事に成長していた。長男マークは家具職人としての道を歩み始め、ローリーは美容師見習い。双子のダーモットとシモンは工業学校に入り、娘のキャシーは13歳とおませな年頃に。おっとりしたトレバーには意外な才能が秘められていたりと一家は幸せ・・・のはずが、次男フランキーはパンクな不良になって問題ばかり引き起こし、ダブリンの都市再開発計画のため、一家は郊外のフィングラスに引っ越すことになってしまった!マークの勤め先のワイズ・コーポレーションは倒産の危機にあり、ローリーの素行にもなにやら問題が・・・。賑やかなブラウン一家の第2章。
前作『
マミー』から3年後の1970年から物語が始まる。本作も、笑って、笑って、泣いて大泣きした。この作品は、私がアイルランドを愛する理由がぎゅっと濃縮されている。どこを切り取ってもアイルランド、アイリッシュの不屈で愛すべき素質が垣間見られる。アグネスのあっけらかんとした様、マークの柔和で不屈な様、ダーモットの利発で巧妙な様、キャシーの奔放で、しかし純粋な様、悲しいかな、フランキーの堕落していく様までもがアイルランドそのものなのである。
前作より子供達が成長した分、アグネスだけではなくて子供たちのあれやこれやに当てられる部分が増えている。比例するように、アグネスの苦労も分散されている。さぞやアグネスも大変だろうと思いきや、マークの成長が著しく、前作ではしっかりしていたが子供らしい健気さがあったものが、今作では立派な大人として、家族とアグネスを支えていく。
前作ではブラウン一家が立ち直り、アグネスが家族の長として成り立っていくという一本柱があったのだが、子供たちの経済的援助に加えて、彼らの成長という要素が入り込むことによって問題の質が変化し、より社会的に深刻なものへと変わっていく。それでもアグネスは相変わらず愛らしいまでの大らかさを発揮し続け、それゆえにマークの助力が大きく影響していくのだ。
相変わらず、映像が脳裏にまざまざと浮かぶ文章だった。映像関係の方の作品は本当に、見せる言葉に長けていると思わせられる。細かく散々笑わせておいて、いとも簡単に感動の大波を打ちつけてくる。。全く、、、まんまと楽しませて貰いましたよ。電車の中で何度涙を飲み込んだことか(笑)。
前作の観想でも書いたのだが、やはりアグネスは幸せ者だ。私も子供たちから黄色と真っ赤なバラを貰ってみたい(笑)。『世界中のバラを集めてもまだ足りない』、なんて賛辞の言葉を受けてみたいものです。少しずつ子供たちはアグネスから離れていくけれど、アグネスの真直ぐな思いは子供たちから離れることはないのだろう。小奇麗ではないけれど、心に真直ぐに突き刺さる飾らない愛情が余りに暖かい。
ラストは衝撃の展開が待っている。まさかと思うが、アイルランド文学として妙に納得してしまうところもあった。現実は何より絶対的に厳しい、それはアイルランドの人達が長年の歴史で学んできたことだろうから。例え物語の中ででも、絶対的な厳しさがあるのが当然なのかも知れない。それでも甘ちゃんな私が思うには、アグネスにもうちょっと努力させて上げて欲しかった。幻想を追い続けるのではなくて、現実を知って助ける努力をさせて上げて欲しかった。その結果が例え変わらなかったとしても、アグネスにはそうするだけの権利があったのだから。せめて最後の言葉を、交わさせて上げて欲しかった。
この作品がアイルランドで受け入れられるのは良く分かる。かつて『
アンジェラの灰』が熱狂的に受け入れられた反面、余りの貧困描写の激しさに苦情が出たというのと比例していると思うのだ。『
アンジェラの灰』の貧しさは本物だろう、しかしあの作品には、アイリッシュたちが闘う糧としてきた陽気さと奔放な前向きさ、ひたむきさが無い。悲惨さは認めてしまえば苦しみだけしか残らない、アイルランドの人々は、悲惨さを笑いに、闘志に換えて生き抜いてきたのだから、本作の陽気さや純粋な感謝の気持ちの方が、読み手の感情にぴたりと寄り添ったのだろう。
無知であることを恥じない、がむしゃらであることに気負わない、精一杯であることが当たり前の人生。アグネスのそんな人生は半ばに差し掛かった。子供たちの個性がはっきりと描きこまれた本作、そんな彼らの結婚、新たな人生の始まり、喜びと悲しみが半分に分かれた今作、最後を飾る3作目への期待が弥が上にも高まるというものだ。嬉しいことに、本作を出版して下さった恵光社さんで続編の刊行が予定されているという。前作の観想での公約通り(笑)、お取り寄せにて新刊購入。次回も新刊で購入すると誓います、一日も早い発売を期待しております。
凄い!お忙しいのに、もうお読みになったんですねぇ~。
私なんて自分のblogすら確認する余裕・・・なし。
どこでもなんでも、コメントいただけるのは嬉しいです!パディも気に入って頂けたようで、重ねて嬉しいこと(笑)。
私はほとんどをただただ楽しく読み続け、ラストで一気に少年が『大人』にっていく様に猛烈に胸を打たれたのを覚えています。この頃はアイルランドを良く知らなかったのですが、だからこそ、アイリッシュの力強い雑草のような国民性を無意識に感じられたのかも知れません。
『コミットメンツ』は映画ともども名作ですしねぇ。『アイリッシュはヨーロッパの黒人だ』って、言いえて妙、名言だと思っています。