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『駅舎にて』

2011/08/18 16:01 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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ブーダディヴァ・ボース 著/飛田野 裕子 訳/あすなろ書房
やむを得ぬ事情により列車が止まり、駅の待合室で一夜を過ごすことになった一等車両の4人の男。全員中年の盛りを超え、それぞれに人生の滲む風貌をしていた。恰幅が良く頭も大きく堂々とした建築業の男、洒落た西洋風の身なりで、人生の全てが規律正しいもののように思える外交員、優雅な富を漂わせる医師、落ち着きがなく他の3人よりも幾分若い自称作家。彼らは待合室を占領しながら、奇妙な旅の連帯感で北部の凍てつく一夜を過ごそうをする。偶然見かけた若いカップルの姿にほだされ、それぞれが思い出に眠る恋愛を語り始める・・・。

物語の構成はそれぞが語る恋物語と繋ぎの現在の描写、一種のオムニバス形式である。まずは成功した建築業者の淡く痛みが伴う片思いの話。次いで、西洋文化に浸かりきった外交官のによる初恋の物語。唯一コミカルタッチで描かれる、穏やかな若き医師が妻を勝ち得るまでの物語。ラストはより幻想的で濃密に描かれる、3人の若者の友情と憧れと悲恋の物語。
1つ1つの物語は短いが、短編としての質は最高級。それぞれに決められたテーマに沿って、印象の違った物語が堪能できる。シリアスに、散文的に、コミカルに。共通しているのは、主人公や相手の女性の個性が一瞬にして鮮やかに見出せる、卓越した筆致だろうか。
間違いなく、インドが舞台だからこそ書けた作品である。そのくせ、宗教や政治と言った難しい事柄は、暗に触れるくらいで主張していない。『物語』としての質を最優先に保っているところは素晴らしいと思う。インドならではの恋愛観、親が決めた相手との結婚、好きな人に自由に気持ちを打ち明けられない窮屈なしきたり、第二次大戦を挟んだ経済的混乱と、それ以前の牧歌的で緩やかな暮らしぶりなど、それなりの『らしさ』はあるが際立ってはいない辺りは読みやすい。それでも西洋と混同するような曖昧さはなく、しっかりと『インドの物語』であることは伝わってくる。
それでも、女性たちが勝気で制圧されていない描写が面白い。それぞれの語り部のお相手の女性は、精神的に自立しており、女性らしい我がままさもあり、決して付属品としての女性ではないのだ。気の強い母親や伯母なども万国共通なのか、この作品では記号のような女性は描かれていない。血と肉を持つ、確立された個性として丁寧に描かれているところも好感が持てた。
いささか古い時代を舞台にしていることが幻想的な印象を強め、千夜一夜物語のような語りのスタイルがより一層の個性を持たせる。そして何より、この物語の中の恋愛は、インドにおける男女間のあり方を巧みに利用し、余りにも純粋で脆くて、時に痛々しく、時に温かく描かれているのがなんとも切なくてノスタルジックな気分にさせるのだ。
おまけに、描写や言葉がとても綺麗だ。長い一夜の後の明星の空、夜と朝が混在する不思議な時間帯にひっそりと、駅で一夜を明かした人々の静止したような姿。それを見つめる男の胸の内を鮮明に思い描きながら、朝靄に覆われたインドの駅の風景がリアルに浮かび上がってきた。見事だな、そして本当に美しい。
個人的に最も気に入ったのは、やはりラストの物語。短編として単独で立派に通用しそうな質の高さであり、この作家の文学的力量を垣間見させてくれる。もう本当に切なくて痛くて情景豊かでねぇ、憧れと報われない気持ちと友情とが絡まり合ってなんとももう・・・はぁ。余りにも美しい物語の終わりと、それを包むいささかあっけない静寂と、その後に訪れる早朝の淡い奇跡、なんて綺麗な物語なんだろう。速読の方なら1時間くらいで読めてしまいそうな作品なのだが、この言葉と余韻をじっくり味わいつつ、少し時間をかけて読んでいただきたい作品だ。

駅舎にて駅舎にて
(2011/02)
ブーダディヴァ ボース

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