『種をまく人』

ポール・フライシュマン著/片岡 しのぶ 訳/あすなろ書房
移民の国アメリカ、中でも移民者が多く集まる町がある。ある町の片隅の広場で、小さなベトナム人の女の子が種を撒いた。小さな芽は、やがて大きな畑となって町の名物となる。様々な国から来た沢山の人々が、野菜を作り花を育て、小さな触れ合いを増やしていく。見知らぬ町はいつしか大切な人が暮らす場所になり、生きる糧である植物は、大きく育っていく。

始りは、少し切ない父親への思いを持ったベトナム人の女の子だ。彼女は、会うことの無かった父親への思いを、たった3粒の豆に託す。次の物語では、その姿を見下ろす老女。自身の長い歴史を住む町に埋め、今では窓の外を覗くのが楽しみだ。こうして物語はバトンを渡され、次々に語り部を変えていく。
前の物語から繋がっているものもあれば、全く関係ないものもある。数話飛ばして、前の話の語り部が少し登場する場合もある。そこがなんとなく、普通の町での生活を思わせて、自然と人との繋がりを意識させる。
泣かせようとか、感動させようとか、そうした意図は一切感じられない。幾つかの話は確かに感動的であったりしたが、それが余りにも、普通の出来事である人達の話だった。
決して裕福ではない人達は、忙しいだけの単調な生活を送っていたのだろう。そこに現れた畑。それぞれが少しずつ手を加え、元は空き地でゴミ捨て場だった広場が畑に変わるのだ。たった1人の力ではなく、少しずつ、誰かの力が加わっていく様が、物語を通して語られる。
人々の触れ合いも、僅かに他人行儀であるものの、必要な暖かさを備えている。都会で生きる人にとっては、心地よい距離感だろう。その心地よさも、中々見つけられないのが現実だが、この作品では、畑という共通の楽しみを通して人々が生み出していく。
とにかく、ほっとするいい作品だった。都会の中の畑。難しいシチュエーションであるが、私は想像の畑の中で、登場人物のさり気ない日常を借りて、大きな植物を育てた気持ちになった。大仰しいだけが感動ではない。日常から生まれるさり気ない優しさや一生懸命さからも、心に染み透る感動がある事を再確認した。

種をまく人種をまく人
(1998/07)
ポール・フライシュマン片岡 しのぶ

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  • Author:hiyo
  • たった二つの趣味、映画と読書を中心に、日記を書いてみたいと思います。
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