『ジャーヘッド』【ネタバレ注意!】

  • 2006/09/08(金) 15:30:25

〔米〕JARHEAD (2005年)
監督:サム・メンデス
原作:アンソニー・スオフォード
脚本:ウィリアム・D・ブロイルズ・Jr
ジェイク・ギレンホール/ピーター・サースガード/ルーカス・ブラック/クリス・クーパー/ジェイミー・フォックス/ブライアン・ケイシー/ジェイコブ・ヴァーガス


祖父も父も叔父も海兵隊員だったアンソニー・スオフォードは、その家族から逃げるように、結局は18歳で海兵隊に入った。入隊早々のしごき、配属先での手荒い歓迎などから、スウォフは早々に後悔し始める。しかし斥候狙撃隊に選ばれてからは、徐々に軍隊に馴れてゆく。隊内での結束も高まり、トロイという親友もできた。そして1990年、アメリカは湾岸戦争に突入する。待ちに待った実戦に胸躍らせる海兵隊員達。意気揚々と砂漠に乗り込んだまでは良かったが、実際には訓練と待機だけの、退屈な時間が待っているだけだった。

これもまた、賛否両論の映画。戦闘シーンがない戦争映画。暴力も、極限の人間同士のドラマも無い。しかし、実に興味深く、考えさせられる側面を持った映画だった。
まずは原作に興味が沸いた。戦争という殺戮と理不尽な感情渦巻く世界を、まるきり違うアプローチで、元海兵隊員が書いた手記。この映画が忠実に再現されたものならば、是非読んでみたいと思う。
殺人のシーンも厳しい軍業シーンも無いが、やはり日常的ではない感覚が蔓延している。スウォフ達海兵隊員は、日々俗世の楽しみもおろそかに、訓練に明け暮れている。それも全て、いざ戦争が始まった時に自らの命を守り、敵に打撃を与えるため。端的に言えば、自分より先に敵を殺すため。厳しい訓練を受け続けるものは、いずれその成果を発揮したいと願うもの。これは誰しもが同じだろう。そこで折り良く『湾岸戦争』が始まった。
しかしベトナムとは違い、現代の戦争はスピードと威力の時代に変化していた。空軍が幅を効かせ、一撃で敵を破壊してしまう。地道に陸上にいる海兵隊員には、砂漠での活躍の場所は無い。終わりの見えない、不便さだけが目立つ砂漠での生活が、延々と彼等を蝕んでいくのだ。彼等の敵は、よもや『暇』という情けないものになっていく。
そんな毎日の中で彼らが考えることは、『早く成果を発揮したい!』だ。その心情を解りやすく説明するなら、『早く人を殺したい』となる。なんて・・・バカらしくも恐ろしく、そしてやるせない感情だろう。しかもそんな感情を、彼等は誰憚る事無く声高に叫ぶ。それを否定する人もいなければ、まして叱責する人もいない。そこには確実に、目に見えない狂気がある。
そして私は、『誰でもいいから殺したい!』『銃を撃ちたい!』と悲痛に叫ぶ兵士達を見ていても、一向に責める気持ちは沸き起こらない。むしろ、映画後半にトロイが見せる精神的狂乱が、切ないぐらいに良く解る。その辺の解り易さが、この映画の魅力であり、恐ろしいところだ。ダラダラと続く兵士達の日常を通して、戦争の根本にあるかとも思える、『正当性のある殺人』という何ともいえない無意味な姿を、くっきりと見せ付けられる。戦争とは、果たして何のために行なうのか?それは決して、兵士の努力を実らせて、人を殺すためでは無いはずだ。
不幸中の幸いにして、いや、兵士達にとっては、不幸中の不幸にして、彼等の実際の戦争は僅か4日間で終わる。しかも一度も銃を撃つことも無しに。その時彼等は、どうしようもない焦燥感に駆られるのだ。明らかにおかしな感情だ。でもそれが正しく思えるのが戦争であり、観客であるこちらも、『残念だったわねぇ』と、極普通に思ってしまう。
戦争でも何であろうとも、『人を殺す』ということはいけない事だと、実はこの映画はそれとなく語っているのだが、やはりそうしたメッセージを伝えるには、少しばかり難しい作りだった。
しかしやはり著者が語りたかったのは、戦争という難しい状況、その意義なのではないかと思う。軍隊の在り方に対しても、やんわりとメスを入れているような気もする。
軍隊という特殊な状況にあって、若者達に与える影響。それ無くしては存続できない国。戦争って一体何なの?という疑問。それを、実に現代的に語っている。苦しい、辛い、悲しい、悲惨。そんな重苦しい戦争映画の時代は終わったのかも知れない。戦争の実体が変わったように、こうしたあっけらかんとした若者達が綴る戦争が、現在の姿なのかも知れない。
でもそこには、『無駄な死』という、動かし難い現実が横たわっている事だけは、不変の事実として残り続けている。私の中で不変と思われた戦争映画第一位『プラトーン』の座は、この映画によって危うくなった。あの映画は『古い』戦争の姿を映す、ぼやけた鏡になってしまったのかも知れない。

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ぽすれん『ジャー・ヘッド』紹介

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