『ディーバ』

  • 2006/12/08(金) 16:40:51

デラコルタ著/飯島 宏 訳/新潮文庫
レコード会社のメッセンジャー・ボーイをしているジュールは、無類のオペラ好き。時折オペラ歌手のコンサートに出かけては、バイオリンケースに仕込んだ自作の録音装置を使って、無断でコンサート音源を録音して楽しんでいた。現代最高と目されるアメリカのオペラ歌手シンシア・ホーキンス初のヨーロッパツアーにも行き、アーティスト最高のコンサートを首尾よく録音した。同じ頃、パリ一体を仕切っている裏社会のボスサポルタの愛人が、彼を陥れようと悪事の全てを録音したテープを作成。それが偶然からジュールのバイクに隠されて、ジュールは警察とマフィアの双方に追われる身となってしまう。そんな時に出会った美しいアルバという少女。彼女と行動を共にするゴロディッシュという謎の男に助けられ、ジュールはなんとか身を隠す方策を立てるのだが。


1979年頃?の作品らしく、何の気なしに手に取ったのだが、思わぬ掘り出しものだった。スリリングなサスペンスがスピード感ある展開を見せ、息詰まるような緊張感のある作品だったのだ。
物語は、幾つかの事柄が交差する。マフィアのテープを巡るサスペンス、ジュールが無断で録音したテープを巡るビジネス上の攻防が2本柱だが、それぞれのエピソードが、順当な時間軸を経て巧みに進行していく。
そして、幾つかの人間関係も交差している。ジュールとアルバ、アルバとゴロディッシュ、ジュールとシンシア、サポルタと愛人ナディア、ナディアと友人と言った具合なのだが、これが決して複雑にならず、理路整然と、しかし興味深く描かれる。
非常に薄い本なのだが、これだけの要素がしっかりと収まり、しかも何ものをも邪魔していない素晴らしい構成力だ。ラストも完璧だった。1つ1つの事柄にキチンとした結末が用意され、尻切れトンボに感じる箇所がない。凝った作品は面白い、しかし分厚くなるのは仕方がないと思っていた私の固定概念を、見事に覆した作品になった。
物語の要素だけを抽出し、余計な描写や遠まわしな表現、サブ的な出来事などは綺麗に削ぎ取った作品なのだ。翻訳小説は、長ったらしい言い回しが多いから嫌い!思っている方にはお薦めの作品だ。
謎の男ゴロディッシュが、思ったより正義に厚く良い男だったなぁ?と意外に思ったのだが、これはもともと、ゴロディッシュとアルバのシリーズだそうだ。悲しいかな、日本ではこれ1作しか翻訳されていない。
そうして考えると、主役扱いのジュールの存在感が弱く、大した事をしていないのも納得(笑)。警察から逃げ回る姿がどうも腑に落ちなかったのだが、最後のジュール自らの説明と、シリーズを解説している後書きによってモヤモヤは霧散した。
ページをめくるのを止められず、全てが山場なので息つく暇がない(笑)、サスペンスのコアを堪能できる作品だった。

ディーバ / 飯島 宏、デラコルタ 他

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