『エミリーへの手紙』

  • 2007/03/12(月) 08:13:32

キャムロン・ライト著/小田島 則子・小田島 恒志 訳/日本放送出版協会
ハリーは自分の死期を悟っていた、というより『正気』でいられる時間の少なさを実感していた。自分が自分でいられる内に、ハリーにはしておかなければならない事があった。自分の過去、人生を手紙にしたため、愛する孫娘エミリーへ託すことだ。アルツハイマーの症状が顕著になるなか、彼は1冊の詩集を完成させる。その詩には手紙へ繋がる謎が潜ませてあり、謎を解くことによってエミリーへの手紙を開くパスワードとなる。ハリーが亡くなった後、彼の子供たちは謎解きに夢中になり、余り良く知らなかった、知ろうとしなかった父親の隠された過去や真実の姿に近付いて行く。


いや〜〜、、、、老人とは賢者である。祖父母というのは、古き良き知識の宝庫である。人生を生き抜き、辛いことも楽しい事も十分に味わった後、その単純な気持ちの根底を探る優れた視点を養っている人達である。
私も祖父母の話を聞くことは好きだったが、人生についてなどという深い話ではなくて、明治生まれの2人の、今では考えられない生活様式などを聞くことが好きだった。恐らく私の祖父であったなら、この作品と同じく深遠な人生観を持っていたのではないか?と思い起こした。
エミリーへ宛てられた手紙は、実際は息子や娘、その家族にも焦点を当てて書かれた内容の物も多かったが、建前はまだ幼いエミリーへの手紙。それゆえ非常に解りやすく、様々な『生きること』の素晴らしさや辛さ、それをどう乗り越えたら良いのか?という事が書かれていた。
ただなんとなく生きているようでも、ハリーの言いたかった『人生の良き生き方』は理解はしているはずだ。ただ、改まって解りやすく解説されると、なるほどそうか!と思わせられる。解っちゃいるけど・・・難しい、というのが本音だろう。
こうした賢者的な真理の追究以外にも、単純におじいちゃんが孫へ宛てた優しい言葉が多分に含まれている。それは、ハリーの過去の出来事などを含めて、愛情たっぷりに描かれていて、時にじんわりと感動させる作りになっている。
単に謎解きと優しい手紙の繰り返し以外にも、ハリーと息子ボブの複雑な関係、そのボブと離婚間近の妻ローラのエピソード、果たして本当にハリーはアルツハイマーだったのか?という真実を探るローラの姿、ハリーの過去に隠された衝撃的で悲しい物語などが含まれている。ラストでは泣かせてくれた。単なるハッピーエンドかも知れないが、ハリーの教えによって、最悪の事態を防いだであろう事実。それによって、恐らくハリーも救われたはずだ。
単純なことのようで難しい。時折気がついて一度自分を振り返ることも大切だ。こうした優しい作品によって、私も一時救われた気持ちになった。

エミリーへの手紙 エミリーへの手紙
キャムロン・ライト (2002/06/25)
日本放送出版協会
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