『僕の心臓を盗まないで』

テス・ジェリッツェン 著/浅羽 莢子 訳/角川文庫
物語は、モスクワの寂れたアパートから始まる。孤児の子供達、辛い生活だけが彼等の全てだった。アメリカで養子縁組があると連れ出された子供達は、ある船に乗せられた。一方アメリカの病院では、優秀な臓器移植チームが活躍していた。インターン2年目ながらその腕を買われ、移植チームに推薦されたアビー。ある不可解な移植に関わる事件があってから、疑問を抱いたアビーの身辺に次々と事件が持ち上がり始める。果たして、アビーを取り巻く強大な勢力の真の姿とは何なのか?船の中の少年達は、一体どこへ向かっているのか?

余り考えることが得意ではないので、サスペンスはさほど読まない(笑)。ミステリはまた別(笑)。理由は不明なのだが、私の好きなミステリは、総じてアガサ・クリスティを代表する、イギリスの古典的緩めミステリだ。
自らが元医者である女性が描いた処女作。読ませてくれる筆致と展開、さほど重厚でもない雰囲気。加えて女性が主人公という、言い方は悪いが女らしい非暴力的な展開は好みだ。男が主人公のサスペンスってのは、直ぐケンカしたり銃が飛び出したり監禁されたり(笑)。それで主人公があり得ないぐらいの重症を追って、満身創痍になりながらも事件の核心に迫っていく・・・的なね、疲れるのよ、読んでて(笑)。
『臓器移植』という事柄については、先進国アメリカと日本の考えの違いにはかなりの隔たりがあるらしい。この作品は、『生きる』ために臓器を『商品』として扱う犯罪組織と、それと戦う善良な医者という構想が展開する。しかしその中であっても、取り扱うべきは人の命。果たして、読者自身が傍観者でなくなった時、それぞれはどんな行動を取るだろう?非常に難しい問題をスコン!と紛れ込ませている。清く正しい答えを言う事は簡単だが、果たして・・・?
非常に読みやすく、かつ適度な強弱を保ちつつ惹き込ませる筆致の作家だが、難を言うなら、ロシアの少年達とアメリカでの出来事が、どうも上手く融合していなかったこと。雰囲気も違えば、繋がりは見えていながらも、それぞれが『出来事』として成り立っているから尚、毛色の違いが上手く噛合っていない気がして、場面が変わるところでは意識の流れの中断に戸惑った。
登場人物もいささか多いのだが、キャラクターの書き分けが薄いので、時々ぼやけた対象が入り混じり、『うん?あの人の役割はなんだっけ?』と(笑)。
とはいえ、比較的万人ウケする軽めのサスペンスで、楽しめる作品だと思う。事件だけに没入してえぐり込むというよりも、主人公の人生や思考も緻密に描かれているので、もっとドラマ性の高い作品を書かれたら、相当面白い作品になるのではないだろうか?

僕の心臓を盗まないで 僕の心臓を盗まないで
テス ジェリッツェン (2001/01)
角川書店
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  • Author:hiyo
  • たった二つの趣味、映画と読書を中心に、日記を書いてみたいと思います。
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