『ハードライフ』

  • 2007/07/26(木) 00:01:49

フラン・オブライエン著/大沢 正佳 訳/国書刊行会
20世紀の初頭のダブリン、母の記憶も殆どない内に孤児になったフィンバーとその兄メイナス。義理の伯父コロッピーの家に引き取られたが、歳の離れた兄は直ぐにコロッピーに反抗し、学校も辞めて怪しい仕事に精を出す。綱渡りの教本を売ることから始め、次第にその詐欺まがいの仕事の幅を広げていく。コロッピーは神父と様々な議論に華を咲かせ、孤独な中でもフィンバーは着実に成長していった。やがて兄はイギリスに渡り、年取ったコロッピーは関節炎に悩むようになる。それを聞いた兄メイナスは、自分の会社の新しい薬品といって、『豊満重水』なるものを送りつけて来たのだが、それが思わぬ事態を呼び、フィンバーの人生すら動かすことに?


フラン・オブライエン、初めて聞く名前で、プロット自体に飛びついてしまった。読み始めてしばらく・・・うん、誰かの文体に似てるな?と。またまた、読書を中断して解説に走る。やはり見つけた、ジェイムス・ジョイスの名前。オブライエンが文壇にデビューした頃、既に作家として名を成していたジョイスは、オブライエンの作品を高く評価したという。
というか考えてみれば、時代的にこうした、散文的だったり、精神面を描いたりする文体が主流だった頃だろう。芸術としての文学が表立ってもてはやされ始めた頃、娯楽ではなく、武器として使える文学。危険な思想、崇高な信念などが巧みに織り交ぜられ、そうした扇動的な文章を好まない政治、世論と常に反目していた作品群。そして思うに、文学の世界にも『現代アート』の波がかかりつつあった頃じゃないだろうか?見る者の理解力を置き去りにする芸術。理解することにステイタスを与える芸術だ。
どうやらこの作家の他の作品は、より難解であったりするらしい。何かと物議を醸したという『第三の警官』という作品も興味があるが、読めるか?という自信の無さが付きまとう。文体的にも難解さがある作品のようなのだ。
さて、そうした情報を下敷きに考えてみると、この作品はかなり読みやすいと言えるだろう。幼い兄弟を引き取ったコロッピーと神父が時おり(とはいえ、作品の1/3は確実に占める長さ)交える延々とした政治・宗教などの談義において、作者の思想かまたは世論が、脈々と織り込まれているようには感じるが。
プロットも面白い。アイルランドにおいて、中産階級の家庭が舞台だ。さして苦労は知らないけれど、両親を早くに失った兄弟。貴族でもなく、どうやら成り上がりというわけでもない義理伯父コロッピーは、何やら団体に属しながら驚くような計画を進行中(この辺の詳しい解説は後書きにあって、なるほど!と思う簡潔な背景が見えてくる)。イギリスに渡った兄が送ってきた薬が元で、ちょっとした事件が起きるのだが、さてこの兄弟の行く末はいかに?と言ったところ。
アイルランドらしい描写は少ないけれど、その暮らしぶり、宗教などを含めた考え方などなど、切り離せないお国柄が溶け込んでいるのが面白い。
ラストなのだが、これも解説を読んでいただきたいところ。解説を受けなくちゃ理解できないラストというのもいかがなものか?と思いつつも、読めばすんなり落ちるラストだった。実際兄(恐らくは信頼している)からのあの提案を受けたら、普通の心理でフィンバーの行動も理解できなくもないかな(笑)。

ハードライフ ハードライフ
フラン オブライエン (2005/02)
国書刊行会
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