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『夜ごとのサーカス』
- 2007/12/09(日) 22:18:40
アンジェラ・カーター著/加藤 光也 訳/国書刊行会
背中に大きな羽を持つ空中ブランコ乗りのフェヴァーズ。その真偽を確かめるために現れた、アメリカ人青年のフリーライターウォルサー。フェヴァーズが語る奇想天外な半生は、眉唾のようでもあり、不思議と真実を感じられる物語。卵から生まれたフェヴァーズは娼館の女性達に育てられ、やがてサーカスに参加して人気者となる。フェヴァーズに惹かれたウォルサーは、そうとは気付かずままに、彼女を追ってサーカスに参加。2人は広大なロシアの大地へ旅をする。そしてフェヴァーズを巡る事件が次々と彼等を襲う事になるのだが・・・。
『ワイズ・チルドレン』を読んでいたく感動したので、その前作に当たり、似た作風だと紹介されていたので楽しみに読み始めた。確かに、下町娘のフェヴァーズが波乱万丈の半生を語り、それでも力強く生きる様は、その後に続く『ワイズ・チルドレン』に通ずる物がある。しかしこの作品は、『ワイズ・チルドレン』に結実する、下町娘の放埓な人生をコミカルに、またブラックさを交えつつ描くような、それでいて深遠さがあり、軽い文体の裏に脈々とそうした要素を包括しているあの完成度とは少し違った。
完成度と言い切ってしまうには語弊がある気もする。この作品はこの作品なりに、非常に高い水準の仕上がりだと思う。しかも、『ワイズ・チルドレン』には無かった、若い男女の恋愛模様、しかも運命の出会い的な甘い要素もあったりするのだ。
フェヴァーズを中心として、様々な『社会的、人道的』に弱い立場の人が脇を固めている。唯一違うのは、フェヴァーズを追い求めるウォルサーぐらいだろうか。『ワイズ・チルドレン』でもそうであったように、著者は社会の根底でも根強く逞しく、かつ明るく生きようとする人々を、温かみと共に辛辣な視線で描き出す。その辛辣さはこの作品の方が格段に上で、稀に同情できないような人も登場する。面白いのは、サーカスの猿の一団が素晴らしい知性を持っていて、彼等なりに当然と思える、いや、囚われの人間達が起こせなかったような真っ当な反逆を起こすところだ。著者なりの弱き人間達に対する、痛烈な激励が込められているような気がした。
作者が著した弱い人々は様々で、当時まだ社会主義国家であった崩壊前のソビエトを舞台に据えた辺りも興味深いと言えるだろう。果たして著者はどこまで、そうした要素を表現したかったのか?余りにその要素が多すぎて判断が出来ないくらいだ。
もしかしたら、単に興味深いい素材であるからという理由だけで、奇形や貧民階級、愚鈍で無知性、国による制圧に苦しみつつも、あえて問題を直視しないような、悲劇を甘んじて受け入れるような、そんな様々な境遇の人々を題材に据えたの知れない。
それでも多くのそうしたキャラクター達は、あっけらかんと明るく、逞しく、己が道を、己が人生を突き進む。フェヴァーズを育てた娼婦達、その後に彼女が出合った見世物小屋のフリーク達、そしてサーカスで出会った虐げられた女達。そう、この作品においても、著者は『弱き人々』の中に『女性』を組み込んでいる。ほとんどが性的に虐げられている女性ばかりだが、日の目を見るのも、強く親しみやすいキャクターであるのも女性ばかり。やはりこの著者は、そうとうなフェミニストだったろうと思わせられる。
ラストはなんだか嬉しくなるような、淡いロマンスの香りを漂わせ、難しい記載も多くあるが、全体としてはファンタジックな雰囲気の高い水準を保った文学作品だ。ファンタジーでもあり、奇想天外な物語なのに、しっかりとした文学という印象がある。この著者の魅力をじっくりと味わえる良作だ。
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ジャンル:
- 小説・文学
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