『ダヴィンチ・コード』

ダン・ブラウン著/越前 敏弥 訳/角川書店
有名な象徴学者のラングドンは、講演のためにパリに来ていた。面識は無いがその知名度から尊敬していたルーヴル美術館の館長、ジャック・ソニエールの要請により、講演の後には本人と会うことになっていた。約束の時間に現れなかったソニエールは、同じ日の夜、死体となってルーヴルで発見された。奇怪なソニエールのダイイングメッセージには、ラングドンの名前も記されており、彼は重要容疑者になってしまう。尋問を受けている最中に現れた暗号解読者のソフィーは、実はソニエールの孫娘。祖父の暗号メッセージは自分に宛てたものだと気が付いたソフィーは、それを祖父の遺言と信じて、ラングドンを連れて暗号解明に当る。古くから謎とされてきた聖杯を巡り、伝説の在りかを解き明かすべく奔走する2人に、果たして解明は見出されるのか?

まず始めに、これだけの作品を書き上げた作者を賞賛する。膨大な資料に基づいた結果だろうし、実に綿密に組み立てられている。事実と虚構を組み合わせるのは、なんにしろ非常に難しいと思うのだが、その辺は巧みに融合されていた。
主役が象徴学者で、共に行動する女性が基本概念に対して無知であるというプロットから、同じく無知である読者にも、無理なく解りやすく説明する方法が組み立てられた。だからこちらも、気負いこんで資料片手に四苦八苦するなんて事が無く、途中でイヤになることも、意味不明になることも無い。
謎解きに関しても、良くぞこれほどの暗号を捻り出したものだと感嘆した。暗号を作るだけならまだしも、著者はそれを自らで解かなくてはならないわけだが、そこもまた手抜かりなく、綿密に運ばれていく。
さて本筋の方は?ちょっとね、、、。キリスト教の謎だから、そちらに感情が偏るのは仕方が無いが、聖杯の謎が解明されようが、キリストが本当は人間だった!という証拠が現れようが、キリスト教を信奉していない地域にしてみれば、大した障害は起きないと思う。日本にしてみれば、お昼のゴシップネタと同等クラスのものだろう。
それを、世界が崩れるだの人類の拠り所がどうのとか言われても、実感が沸かなくていささか冷めてしまうのだ。
その辺はラングドン教授自らが戒めた事を言ってくれてはいるのだが、いかんせん無心論者の私としては、引き比べる宗教も無いために、事の重大さが掴みにくい。ついでに言っちゃうと、マグダラのマリアとかシオン修道会とか、予め中途半端に知っていた事も、新鮮な驚きを削ぐ要因だったのかもしれない。
そもそも私は、歴史とは不確実なものだと思っている。歴史学者の偉業は素晴らしいと思うのだが、歴史において『絶対』という言葉は通用しないと思っている。まして2000年以上も昔の事に、絶対や確実なんて事を認めるほうが無理。
確実に起こった行動から生まれた事実以外に、歴史に共通性は無いと思っているので、断定的なラングドンやティーピング等、教授連の象徴学に結びつける説が、私にはこじつけにしか聞こえなかった。バラの花がもたらす意味だとか、建物の柱や壁に埋め込まれた模様の意味だとか、何とでも言えるのではないだろうか?ダ・ヴィンチやラトゥールの画に現れる象徴なんて、どうとだって意味を見出せる。もし本当に、そんな意味があるのだとしたら。
私にしてみれば、そんなあやふやな基盤の上に成り立った物語だったので、引いた感情が邪魔をし続けた。
単純に、虚構の宝探しという部分では楽しめる。文章も物語の運びも、エンターテイメントとしては上等だ。サスペンス、ミステリの分類であるなら並以下。犯人もひどくあっさり解ってしまうし、予想通りだ。人物像が余りに安易に『見かけと正反対』という、ありがちな設定に片付きすぎている。まぁこの作品、ミステリの本来の部分は『聖杯』にあるのだろうから、人間がどうのとか、小さいことは考えていないんだろうけど。
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