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『元気なぼくらの元気なおもちゃ』
- 2008/03/25(火) 23:21:11
ウィル・セルフ著/安原 和見 訳/河出書房新社
薬の運び人をやって儲けた金で買った家は、でっかいクラックの上に建っていた。余りにも多すぎる虫達と意思の疎通を果たした男の顛末。余りにも高い知能ゆえ、思わぬ言語を話すヨーロッパの赤ちゃん。奇想天外なプロットを、巧みな話術とかなりのブラックを交えつつ描いた作品集。
「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」、「虫の園」、「ヨーロッパに捧げる物語」、「やっぱりデイヴ」、「愛情と共感」、「元気なぼくらの元気なおもちゃ」、「ボルボ七六〇ターボの設計上の欠陥について」、「ザ・ノンス・プライズ」
初体験の作者だが、結構有名な方らしい。後書きを読んでみると、私としてはかなり変わった物語かつ文体なのだが、それでもこの著者にすればかなりまともな方なのだとか。と言う事は・・・?他の作品はまず読めないだろうなと(笑)。
奇想天外な話とは色々あるが、この人の場合は結構グロい。『虫の園』なんて、お昼時に読んでいたらかなりうんざりした。ブラック・ジョークだとか、風刺的だとか、そうした部分も多分にあるにはあるのだが、なんと言うか?汚い部分の描き出しがとことん汚い(笑)。なんだろう?格別汚い言葉や飛びぬけて詳細な描写があるわけでもないのだが、荒廃した家や刑務所の風景だとか、落ちていくクラックの売人のどうしようもなさだとか、全く救いの無い描き出してちょっと疲れた。
面白かったのは、訳者が書いた後書き。もしかして嫌いなの?と言うぐらい冷たい解説ぶりなのだ。なんと言っても、短編1つ1つの紹介で、『意味が解らん』とダメ出しまでしてしまっている。どうやら、このウィル・セルフという作家は、そういう位置づけのようだ。物語の内容も奇想天外だろうが、小説として、一般常識としても奇想天外なのだろう。普通に面白い物はイカンと(笑)。
多分に風刺的だそうだが、それよりは単なるやりすぎ?と思える部分もあったのだが、読んでいて投げ出したくなるような作品ではない。かと言って、嬉々として読み続けたいか?と問われたらきっぱりとノー!(笑)。
最後の『ザ・ノンス・プライズ』、これは冒頭の『リッツ・ホテルよりでっかいクラック』の主人公のその後なのだが、転落する人生と、何とか這い上がろうとする姿勢、しかしその希望はあくまで排他的だし、救われるとは到底思えない。いや、救われても良いのだろうが、作者がそれを許さないと言った捻くれた印象も無いではない。
しかし、ラストにしていきなり『普通』の小説だったのだ。しかもかなり良く書けている。なんだ、良いじゃない、普通の小説をこれからは書いていけば、と思ってしまうのだが、きっと、ファンの人には到底許せない行為なのだろうな。1回2回ならいざ知らずって事か。
実は『ヨーロッパに捧げる物語』もかなり普通の物語で、シリアスな母親の苦悶なども良く表現出来ていたし、ドイツとイギリスを舞台に、細かく変わる場面転換や追想などの精神の流れなども上手く収まっていて、実際上手い作家なんだろうなぁ〜?と思った。
取り上げている話題も、文体も決してコミカルではないものの、全体の印象は何故かコミカルさが強い。しかしこの作者の本髄はシリアスにあり、と予測を付けたので、いずれ、万人が読める普通のシリアス作品を上梓して頂ければなぁと期待している。
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