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読書はライフワーク、映画鑑賞は人生の潤い、旅行は趣味にしたいなぁ♪日記は日々の覚書き。

『女が嘘をつくとき』

2012/09/06 21:06 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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リュドミラ・ウリツカヤ 著/沼野 恭子 訳/CREST BOOKS
聡明で優しいジェーニャは、夫との離婚後に訪れた療養地で、魅力的な女性と出会う。彼女の語る波乱に富んだ人生に魅了されたジェーニャだったが・・・。時は過ぎ、成長した息子と過ごす夏の休暇。そこで出会った幼い少女の言動に驚くジェーニャ。人生において節目に出会った女性たちのウソと目論見に心揺さぶられながらも、自らの信念を守ったジェーニャに訪れた運命の瞬間とは?

邦題も悪くは無いと思うのだが、少しばかり『嘘』という言葉に誘導されてしまうような気がする。結局のところ、自身の人生だってなかなかに波乱に富んだものであったジェーニャだが、単純に良くある小説のようにその流れを追うのではなく、ジェーニャとは対極にいるような女性との邂逅を起点に描いている、それなりに視点の変わった作品・・・というところ。
故にジェーニャの人生の背景はほとんど語られないが、出会った女性たちを通して必要な情報は全て得られるし、最後に起こる『事件』によって、この物語の主人公がやはりジェーニャであることが解る。
女たちの嘘により深い意味は無く、それは彼女たちを語る一種のモチーフに過ぎないのだが、タイトルからして『嘘』を全面に押し出されると、そこに明確な『オチ』があるような期待をしてしまう・・・のは私だけだろうか?
ジェーニャとは違うタイプの嘘を付く女性たち、嘘を付かざるを得ない女性たちというフィルターの向こうに、はっきりとしたジェーニャの人柄が見える構成。語らない事がむしろ効果的ですらあり、大きく動く後半に至って、ジェーニャが触れてきた嘘の意味が多少なり解る気がした。なるほどね!と、遠回しだけど上手い手法だな、などと変な感心をしてみたり。
例えばハードボイルドや、(読んだこと無いけど)ヘミングウェイが『男らしい』作品と言うなれば、本作はまさに『女らしい』作品。終始柔らかいトーンに包まれているようで、たまにはこんな作品も良いと思った。


女が嘘をつくとき (新潮クレスト・ブックス)女が嘘をつくとき (新潮クレスト・ブックス)
(2012/05/31)
リュドミラ ウリツカヤ

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『サッカー審判員 フェルティヒ氏の嘆き』

2012/08/15 18:36 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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トーマス・ブルスィヒ 著/粂川 麻里生 訳/三修社
フェルティヒ氏は考える、たった今出てきた裁判所の前で。一瞬だけでも神のように試合を決めるサッカーの審判員である自分と、世の中を神のように裁く法制度というものを。サッカーの審判員だって人間だ、間違う事だってある。だけど人間の命を預かる医者や医療制度は?取り留めの無い思考の流れの先に、フェルティヒ氏によるサッカー審判員の真の思いと、ある1つの物語が見えてくる。

これは面白い。完全なる独白形式。主人公が裁判所を出てから、目の前の駐車場に止めてある車に行くまでの思考を追ったものだ。だから非常に短いが、内容は濃い。単なる呟きの連続でコミカルな作品かと思ったらとんでもない!実に巧みな構成で物語としての膨らみは長編と比べても遜色ないくらい。サッカー審判と言う職業の苦楽を淡々と呟くだけでもなく、意外な方向から全く違った結末を見せてくれる。
知られざるか解っちゃいるがか、サッカー審判員の苦しい胸の内の吐露はなかなか面白い。常々、審判員には優しくあろう・・・と努めてはいるが、自分が応援するチームの不甲斐なさを審判員への怒りにすり替えているのか、とにかく、何かしら審判員には不服が出てしまう。
作中にもあったが、『はいここ重要ですよ』と姿の見えない声が教えてくれる訳でもなく、単なるサッカーというスポーツを超えた、騙し合いや小競り合いを裁くのは確かに大変だろう。シュミレーションなどと言う反則は言語道断、とは言え、明らかに『ハンド』でも無実を訴える選手等の真実を見極めるのに、6万人の観衆の騒音の中ではさぞや・・・。
フェルティヒ氏の苦悩(というか愚痴)は確かに至極もっともで、単なる観客には返す言葉も無いのだが・・・。本作を読んでタイミング良く始まったロンドン・オリンピック、数々の試合を見ながら、フェルティヒ氏の事を思い出し、努めて自分を抑えるようにしている(笑)。
いずれにしろ、構成力は抜群。時折り差し挟まれるサッカー審判とは全く関係ない思考がラストで融合した時、本作は単なる呟きの流れではなく、しっかりとした物語へと姿を変えるだろう。と言うか、こうした物語をサッカー審判の愚痴と絡めて描こうという発想!他の作品も間違いなく読みたくなった。サッカーファンならずとも、こうした手法の面白さは十分楽しめると思う。
さて、いささか余談になるが、巻末に日本版出版にあたって、、、とかなんとか、著者からのメッセージがある。これはもう、サッカーファンなら是非一読して頂きたい。ドイツ人たる著者が思う『日本サッカー』の事が綴られている。ありがたいことに、温かい叱咤激励と言った感じだ。
加えて、日本代表10番を背負う香川選手への賛辞は、読みながら思わず感涙していまったほど(笑)。涙もろい私はさておいて、なんならこの巻末の部分だけでもお楽しみ頂きたい。(というか、出版社の方は香川選手にご連絡したのかしら?喜ばれると思うよ~)

サッカー審判員 フェルティヒ氏の嘆きサッカー審判員 フェルティヒ氏の嘆き
(2012/05/31)
トーマス ブルスィヒ

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あり得たかも知れない未来と、あり得べき現在

2012/08/02 20:54 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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松田丈志という競泳選手の存在を知ってから、大分長い時間が経つ。とりあえずその年月の中で得た印象は、不器用なまでの実直さと人並み外れた熱意。
平泳ぎの北島康介とは1つ違い。北島選手のオリンピック3度出場、世界新記録3回更新、金メダル4つという華々しい栄光の陰で、日本競泳陣のチームキャプテンを務めるのは松田丈志なのだ。彼のレースやインタビューなどを見ていると、その意味もなんとなく解る気がする。

さて、1つ違いのスーパースターの影で、どこか地味な印象のある松田選手だが、その実績は地味どころの話じゃない。自由形とバタフライをこなし、最終的にはバタフライに絞って見事な成績を収めている。単に、金メダルを獲っていないだけで。何しろ敵はあのフェルプス、しかも、乗りに乗った頃のフェルプス、そりゃもう、大変だったことだろう。

松田選手が、20年以上も続く久世コーチとの師弟関係を大事にし、自らを育んでくれた『ビニールハウスのプール』をことの他大事にしているのは、何度と無くテレビで取り上げているので御存知の方も多いだろう。
で、それで、何となく以前から思っていたのは、思ってしまっていたのは、もし、松田選手が、もっと設備の整った環境で練習をしたら?
例えば北島選手のようにアメリカに渡り、例えば『あのフェルプスと』同じ環境で徹底的に練習できたら?かつてダーレオーエン選手が単身日本にやって来て北島選手と共に練習し、瞬く間に彼をも凌ぐトップアスリートに成長したように・・・、あるいは?
日本人としては恵まれた体格、反して日本人らしい愚直なまでの努力家である彼が、新たな環境の中で挑戦していたら?
潔いまでの忠誠心や自らを育てた者への返礼の気持ち、憎らしいほどの男気などは決して嫌いではない、いやむしろ大好きだ(笑)。さらには、スポーツに『たら、れば』は禁物とは言え、どぉぉぉしても、考えずにはいられない。

でも今回、28歳という年齢で迎えたオリンピックの大舞台でのレースを見ていて、長年私の中でくすぶっていた『たら、れば』が払拭された。
ああ、そうなのか・・・。もし、単身アメリカに渡り、高度な環境に身を置き、ハイレベルなチームメイトと切磋琢磨して、大舞台で金メダルを勝ち取ったとしても、その男は、松田丈志ではないんだね。
心から安らげる場所や人に囲まれて追い続けた夢だからこそ、松田丈志として泳げるんですね。そういうもの全てを合わせて作り上げられた人間だからこそ、魂を持った人として泳げるんですよね。そういうもの全てを捨て去って作り上げられた強い男は、単なるロボットになってしまうんでしょうね。

もちろん、より高い位置を目指して環境を変化させていくのは悪いことじゃない。ただ、自分が守り抜きたいものを全部守って、だからこそ『自分自身』で居られる人もいる。それが誰かにとって最善ではなかったとしても、だた唯一自分の為に最善に替える力を持っている。競技への思い、姿勢、ひいては人の在り方は千差万別、まさに『自分色』を追い求めた結果の銅メダル。
そうか、そうなんだ・・・。私が思う『たら、れば』の未来は、現実に起こり得たかもしれない未来。だけどそれは、松田丈志としての未来じゃない。自分自身であるために、守り抜いたのか・・・。
この人、なんて格好良い男だろう。

『部屋』

2012/07/26 02:39 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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エマ・ドナヒュー 著/土屋 京子 訳/講談社
ジャックは5歳になった、ママと2人で『部屋』で生活している。夜は時々オールド・ニックが来る。『日よう日のさしいれ』を持って来てくれるけど、オールド・ニックは怖い人だから、ジャックはいつもタンスの中に隠れるしかない。7年前に誘拐されて部屋に閉じ込められた女性は、大切な1人息子ジャックを部屋で産んだ。それからの歳月何とか生き延びて来たが、母は一計を案じて脱出を図る・・・。

かなり評判の良かった本作、割りあいと多かった観想は、『厚さの割にはあっという間に読み終わった』というもの。確かに、私も1日で半分読み終わってしまった。これは恐らく、『5歳のジャックが語るひらがなばかりで表現が拙く、それ故に言葉が多くなる文章』であるが故、ではないか?と思う。
英語の幼い文章というのが、日本語のように言葉が増えたりするのかは知らないが、『ひらがな』とい表現方法が無い分、文章が大幅に『伸びる』ということはないはずだ。対して日本は、ひらがなでかくと、たんじゅんにぶんしょうのながさがのびてかみのまいすうがふえる。かんじやむずかしい言葉少なければよみやすく、たいていの人は読むスピードがあがる。
それにしても、子供語りに違和感を感じたのは僅かで、物語が平板になるとか単純になるとか、そういったことは全く無いのは素晴らしいと思う。翻訳作業はさぞや大変だったろうと思うが、見事に原文の意志を伝えたのではないだろうか?
ずっと部屋に閉じこもっている話なのかと思えば、以外にあっさり部屋から出てしまう。問題は部屋での生活ではなくて、部屋を出てからの親子の再生に関わることだったのだ。7年間の監禁という想像し難い情況をリアルに淡々と描き、起こり得る様々な事柄が自然に提示されていく。空恐ろしいという思い以上に、驚きと物語としての面白さを強く感じた。
物語のラストにおいて、親子共々大きく視点が変わっていることに気がついた。冒頭の閉ざされた空間で繰り広げられた世界が、とてもみすぼらしく、小さく感じる。言葉で描く巧みな視覚描写も上手いと思った。
・・・ただまぁそのぉ・・・、誤解を恐れず言うならば、子供が苦手な私としては、終始繰り出される『お子様言葉』にだいぶ食傷気味。解説にあるように『愛らしい』などとはとても思えず、著者の意図や構成や表現の巧みさは理解できるものの、小生意気で我侭な子供の行動にイライラ・・・。ふぅ、我ながら結構嫌ですよ、こんな性質。普通の女性らしく『ジャックが愛らしい!』とか、思いたいし・・・でも無理なの!読了後、面白かった!と思うと共に、妙な疲れを感じたのでした・・・。

部屋部屋
(2011/10/07)
エマ・ドナヒュー

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『ハイラム・ホリデーの大冒険 上・下』

2012/07/09 22:11 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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ポール・ギャリコ 著/東江 一紀 訳/ブッキング
14年間、地味に新聞の校正員として働いてきたハイラム・ホリデーは、長年の夢を叶えるべく、突然巡ってきた長期休暇を利用してヨーロッパへと旅立った。1939年、時正に世界が対戦へと突き進んでいる頃だった。ロンドンでハイジという美しい女性とその甥ペーターと出会ったホリデーは、何者かに追われているという2人を無事にフランスへと逃がすことに成功する。ヒーローに憧れて鍛錬を積んできたホリデーは、実は射撃にフェンシングに武術に長けた男だったのだ。そして何より、純真たる騎士道と正義感に満ち溢れていた。ロンドンでの窮状を切々と綴った記事が本社の目に留まり、校正員から一躍ヨーロッパでの記者に昇進したホリデーは、次なる任地フランスで美しいハイジの消息を追う。しかしそれが、思わぬ冒険の幕開けとなるのだった。

愛らしい装丁、P・ギャリコという作家の印象から、愛すべきハリスおばさんや、ジェイニーなどと言った穏やかなる物語を想像していた。お子様が読んでウキウキわくわくしちゃうような、楽しい冒険活劇かな?くらいに。
なんのどうして!『ポセイドン・アドベンチャー』なんかも書いてる作家だったっけ。わたし個人としては、これはもう社会派作品と読んでしまっても良い気持ちですらある。
やはり子供向けの作品らしく、最初は大分多い振り仮名に読み慣れなさを感じてしまったが、途中から逆に、これはお子様が読んでも大丈夫なのかな?と。中学生くらいならなんとか・・・?などと考えていた。
決定的な戦況の激しさを増す直前のヨーロッパで、ホリデーはイギリス、フランス、オーストリア、イタリアなど、後に第三帝国、ファシズムに苦しめらる国を巡る。中でもオーストリアのある女王ハイジとの出会いや繋がりは、ホリデーの更なる窮状を招き、しかし彼の内に眠る情熱を呼び覚ましていくのだ。
1939年頃のヨーロッパ情勢は、読書を楽しむ知的なお子様にはわけないことなのかも知れない。しかしながら、ホリデーのロマンスはどうだろう?
太めで冴えない風貌のホリデーだが、ヨーロッパでの旅を通して持ち前の精神と同様、精悍な風貌に替わっていくらしい。おまけに、どこか憂いを帯びた真青で実直な瞳は(大分誇張入ってますけど)、女性を不思議と虜にしてしまう魅力があるらしいのだ。
そんなホリデーが思いを寄せるのはハイジ王女。その身分差に苦しみつつも悩むホリデー氏はいささか色っぽく、ドイツで出会った女公爵とのロマンスに至っては・・・。あの刹那的で傷つけ合う愛、解るかなぁ~、伝わるかなぁ~、大分セクシーな緊張感があって、結構ドキドキできますけど?
翻訳に関しても、最初こそ当たり障り無く優しい雰囲気で訳していたようだが、この頃にはもう普通の大人向け作品ばりの文章運び。純真無垢な小学生とかがお母さんに色々聞いちゃったら大変だろうな・・・。逢うべきではないのに、その危険が、お互いの身体が、余計に想いを熱くして引き寄せるなんて?むしろそれを理解する子供がいても、何だか嫌なのではあるが。
・・・とまぁとにかく!戦火に怯えるヨーロッパの国の人々の姿を生々しく伝える作品なのです(大分強引に)!後書きに詳しいが、実際に本作は取材も行われつつ1939年当時に描かれたそう。その後の状況を予見するかのようなホリデーの記事や思想は、作家たるもの、これほどの鋭い視点が必要なのかと感嘆するほど。
繰り返すが、全てが公になった戦後に書かれた作品ではないことを、十分に考えてお読みいただければと思う。男性は心の中に眠る(起きてても良いですが)騎士道精神を呼び覚まし、ホリデーの活躍に胸躍らせ、女性は愛する人の為に闘う男性のロマンスにちょっとドキドキしながら楽しめるだろう。

ハイラム・ホリデーの大冒険 上ハイラム・ホリデーの大冒険 上
(2007/05/30)
ポール・ギャリコ

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ハイラム・ホリデーの大冒険 下ハイラム・ホリデーの大冒険 下
(2007/05/30)
ポール・ギャリコ

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『明日は遠すぎて』

2012/06/27 19:52 ジャンル: Category:読書【ドラマ】
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チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 著/くぼた のぞみ 訳/河出書房新社
幼い頃に訪ねたナイジェリアの祖母の家、兄の死をきっかけに遠のいた祖国は、祖母の死によって再び彼女の前に現れた。アメリカにやってしまったばかりに、ナイジェリアの母と考えが違ってしまった娘。そんな娘の結婚式に、母の心は揺さぶられていく。学生時代に付き合った奔放な恋人。大人になって出生して家族も持ったのに、その元恋人が忘れられない男。西洋の文化が入り始めた20世紀初頭から、1人の女性が辿った民族の歴史と家族の物語。アフリカとアメリカを心で繋ぎ、瑞々しく静謐な筆致で綴られた9つの物語。

明日は遠すぎて・震え・クオリティ・ストリート・先週の月曜日に・鳥の歌・シーリング・ジャンピング・モンキー・ヒル・セル・ワン・がんこな歴史家

好きだわ~こういう短編たち。これもまた、ラストでふっと読者を突き放すような距離感がありながら、最初から最後までじっくりと物語に引き込んでくれる奥行きがある。良い短編というのは大抵そうなのだが、物語が始まった途端、その舞台となる世界にいとも簡単に引き込んでくれるのだ。本作でいえば、アメリカの日常が息吹く町の片隅、アフリカの熱気渦巻く混沌とした生活の中に。
欲を言えば、いささか綺麗過ぎるという印象。ある種のフィルターを通してして物語を見ているような感じがある。その向こう側には、多分様々な泥臭さや人間臭さなどがあるのだろうが、作者が見せたいと思うことだけを、そのフィルターを通して繊細に浮かび上がらせる。それでもやはり、巧みに何かを覆い隠している印象は強く、それが逆に潔いな・・・などと思う。
日本で良く出版されるのは、アフリカ大陸の各国が辿ってきた、数奇で過酷な運命が横たわる作品。それゆえに、アフリカ文学に対するステレオタイプが出来上がってしまう。世界各国の出版事情でも、それは同じなのではないかと思う。
著者はアメリカとナイジェリアを行き来するだけあって、そうしたステレオタイプさからの逸脱が容易だったのだろう。言い換えれば、それでも受け入れられたということなのかも知れない。登場人物たちが暮らす世界は、アメリカにしろアフリカにしろ、教養があって金銭的な余裕もある。中産階級かそれ以上の人々が紡ぐ、普通の生活が描かれている。
当たり前に恋をして、働いて、傷ついて、楽しんで、笑って。そんな普通の生活の中に反響するナイジェリアの心が、穏やかだがしっかりとした筆致によって繊細に織り込まれているのだ。
全体に漂う穏やかさと整然とした雰囲気が、アフリカ大陸を舞台にした作品だという私の気負いをいともあっさり剥ぎ取ってしまった。そのくせ、なるほどそうかと安心して読んでいると、『セル・ワン』のような作品でガツンとやられる。
気に入ったのは『セル・ワン』もそうだが、『震え』『クオリティ・ストリート』『ジャンピング・モンキー・ヒル・セル』、ダントツはやはり『がんこな歴史家』。ほとんど全部だな(笑)。甲乙付けがたい。これはもう、ぜひとも長編を読まなくては、先に出た短編集も忘れずに。

明日は遠すぎて明日は遠すぎて
(2012/03/13)
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

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プロフィール

hiyo

  • Author:hiyo
  • たった二つの趣味、映画と読書を中心に、日記を書いてみたいと思います。
    最近、自分の時間を充実させたいな、と結構真剣に思っていたりして。文章を書くのも結構楽しいし、誰かが通りすがりに読んでくれたら、嬉しいかな、とか思っている。
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