2012/08/02 20:54
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読書【ドラマ】
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【
Edit】
松田丈志という競泳選手の存在を知ってから、大分長い時間が経つ。とりあえずその年月の中で得た印象は、不器用なまでの実直さと人並み外れた熱意。
平泳ぎの北島康介とは1つ違い。北島選手のオリンピック3度出場、世界新記録3回更新、金メダル4つという華々しい栄光の陰で、日本競泳陣のチームキャプテンを務めるのは松田丈志なのだ。彼のレースやインタビューなどを見ていると、その意味もなんとなく解る気がする。
さて、1つ違いのスーパースターの影で、どこか地味な印象のある松田選手だが、その実績は地味どころの話じゃない。自由形とバタフライをこなし、最終的にはバタフライに絞って見事な成績を収めている。単に、金メダルを獲っていないだけで。何しろ敵はあのフェルプス、しかも、乗りに乗った頃のフェルプス、そりゃもう、大変だったことだろう。
松田選手が、20年以上も続く久世コーチとの師弟関係を大事にし、自らを育んでくれた『ビニールハウスのプール』をことの他大事にしているのは、何度と無くテレビで取り上げているので御存知の方も多いだろう。
で、それで、何となく以前から思っていたのは、思ってしまっていたのは、もし、松田選手が、もっと設備の整った環境で練習をしたら?
例えば北島選手のようにアメリカに渡り、例えば『あのフェルプスと』同じ環境で徹底的に練習できたら?かつてダーレオーエン選手が単身日本にやって来て北島選手と共に練習し、瞬く間に彼をも凌ぐトップアスリートに成長したように・・・、あるいは?
日本人としては恵まれた体格、反して日本人らしい愚直なまでの努力家である彼が、新たな環境の中で挑戦していたら?
潔いまでの忠誠心や自らを育てた者への返礼の気持ち、憎らしいほどの男気などは決して嫌いではない、いやむしろ大好きだ(笑)。さらには、スポーツに『たら、れば』は禁物とは言え、どぉぉぉしても、考えずにはいられない。
でも今回、28歳という年齢で迎えたオリンピックの大舞台でのレースを見ていて、長年私の中でくすぶっていた『たら、れば』が払拭された。
ああ、そうなのか・・・。もし、単身アメリカに渡り、高度な環境に身を置き、ハイレベルなチームメイトと切磋琢磨して、大舞台で金メダルを勝ち取ったとしても、その男は、松田丈志ではないんだね。
心から安らげる場所や人に囲まれて追い続けた夢だからこそ、松田丈志として泳げるんですね。そういうもの全てを合わせて作り上げられた人間だからこそ、魂を持った人として泳げるんですよね。そういうもの全てを捨て去って作り上げられた強い男は、単なるロボットになってしまうんでしょうね。
もちろん、より高い位置を目指して環境を変化させていくのは悪いことじゃない。ただ、自分が守り抜きたいものを全部守って、だからこそ『自分自身』で居られる人もいる。それが誰かにとって最善ではなかったとしても、だた唯一自分の為に最善に替える力を持っている。競技への思い、姿勢、ひいては人の在り方は千差万別、まさに『自分色』を追い求めた結果の銅メダル。
そうか、そうなんだ・・・。私が思う『たら、れば』の未来は、現実に起こり得たかもしれない未来。だけどそれは、松田丈志としての未来じゃない。自分自身であるために、守り抜いたのか・・・。
この人、なんて格好良い男だろう。